日本の教育現場が少しずつ柔軟性を増していく中で、注目が集まり始めているのがギフテッド教育です。聞きなれないこの教育方法は、アメリカでは多くの州で行われているポピュラーな存在。
生まれつき特別な才能を持った子どもを対象に、それぞれに合ったペースで能力を伸ばせるように工夫する教育方法です。
日本でも渋谷区が2017年に公教育で初めてギフテッド教育を実施するなど、徐々に知名度が高まってきました。しかし、ギフテッドそれ自体について詳しく知っている人は少ないと言えるでしょう。
この記事ではギフテッド教育の概要やギフテッドの特徴、海外でのギフテッド教育などを詳しく解説します。ギフテッド教育がどのようなものか気になっている人は参考にしてください。
目次
ギフテッド教育とは?
ギフテッドとは、生まれつき特別な才能を持っている子どものことを指します。そして、ギフテッド教育ではその特徴を潰すことなく、伸ばしていくために特別な対応をします。
実は1000年以上も前から各国で天才児への特別教育は行われていましたが、体系化されてきたのは19世紀以降です。特にアメリカでは20世紀にかけて各種制度の整備が行われ、議論が重ねられてきた歴史があります。
一方で天才児教育よりも、平等に能力を伸ばしていくことをベースにする日本の教育では、これまでギフテッド教育は積極的には行われてきませんでした。これからは、時代の変化に対応するために日本でもギフテッド教育が徐々に取り入れられていくことでしょう。
ギフテッドとは?
ギフテッドは特定の、またはいくつかの領域において飛び抜けた才能を持つ人のことを指します。領域には学習能力だけではなく、音楽やスポーツ、言語など様々な領域が含まれるのも特徴です。
ただ、どこからが飛び抜けた才能と言えるのか、そしてどのようにして判別するのかが難しいこともあり、アメリカだと定義は州によっても違います。
ここでは、ギフテッドの特徴や判定方法などを詳しく見ていきましょう。
ギフテッドの特徴は?
ギフテッドと一口に言っても、人によって持っている能力や特徴の差が激しく、ひとくくりにはすることはできません。しかし、多くのギフテッドが持っている特徴もあります。いくつか紹介します。
学習能力が高い
ギフテッドの子どもたちは、同じ勉強をしていても飲み込みの早さが他の子どもと比べて段違いなケースがよく見られます。記憶力が高いため、数回見ただけでも記憶できることに加えて、集中力が高く短時間で学習できる特徴もあるのです。
同年代との学習進度に差が出るため、飛び級という形を取る場合もあります。
思考能力が高い
学習能力だけではなく、思考能力が高いのもギフテッドの特徴です。論理的に物事を考えられるので、判断力にも優れていて大人顔負けの考え方を持っている子どもが多いと言えるでしょう。
また、語彙も豊富な子どもが多いため、話をさせると理路整然としていて年齢からは考えられないほどのハイレベルな内容になることもあります。
好奇心旺盛
ギフテッドの子どもは様々な分野について好奇心が旺盛です。そのため、1を教えると10を学んでくるような性質も持っていて、指導方法が適切なら自ら伸びていくと言えるでしょう。
完璧主義
ギフテッドにとって、ポジティブな方向とネガティブな方向の両方に働くのが完璧主義な性格です。ギフテッドの多くが完璧に物事をこなしたいと考える性質を持っています。学習だけではなく日常生活においてもこの傾向は見られます。
ギフテッドの判定方法!IQが使われることも
当然ながら、ギフテッド教育を全ての子どもが受けられるわけではありません。アメリカなどではギフテッドの判定のために様々な方法が用いられます。
州によっても使われる判定方法は変わってきます。代表的な判定方法4つを見ていきましょう。
知能検査
WISC-Ⅳなど、世界的に用いられている知能検査を使って判別するのは一般的な方法です。公平に判断するために知能検査はよく用いられるものですが、理数科目が中心のテストのため、他の能力を見られていないという批判もあるようです。
質問紙
ギフテッドの才能は学習能力に限られず多岐にわたるため、親や担任教師への質問も重視されます。ギフテッドの特徴などに関する質問紙を作って判定に使っているところも少なくないでしょう。
学校成績など
ギフテッドは様々な領域において飛び抜けた成績を出していることが多いため、学校成績なども参考になります。学校成績だけではなく、学力テストや各種受賞歴などを参考に総合的に判定されるケースもあります。
観察記録
知能検査や学校成績は、客観的なデータなので判断しやすいと言えるでしょう。しかし、ギフテッドはデータに表れない部分の才能を持っている場合も多々があるのが難しいところ。
そのため、本人の様子や日常の行動を観察した記録を判定に使う場合もあります。
ギフテッドは時に問題を抱えやすい
ギフテッドは生まれつき才能に恵まれているので何も問題はないと考えられることもあります。しかし、その圧倒的な才能は感覚の過敏性などから生み出されている場合もあり、問題を抱えるギフテッドも少なくないのです。
感覚器官が過敏であったり、精神活動が激しく落ち着きがなかったりする人がいるなど、その表れ方は人それぞれです。他には想像力が高すぎるゆえに社会生活が難しい場合もあるでしょう。
また、得意と不得意の差が激しいギフテッドの子どもよく見られ、学校生活などで苦労することもあります。
もちろん、社会生活に何の問題もない人も多いでしょう。しかし、圧倒的な才能ゆえに過敏な感覚に悩まされる場合も少なくないのです。
海外のギフテッド教育の特徴!特別プログラムも解説
日本に比べると、海外ではギフテッド教育が積極的に行われています。特にアメリカではギフテッド教育が盛んで様々な教育方法が実施されています。
アメリカのギフテッド教育で行われる特別プログラムの特徴を見ていきましょう。
アメリカではギフテッド教育が盛ん
アメリカでは古くからギフテッド教育が盛んで、州ごとに様々な取り組みをしています。
有名なところではジョンズ・ホプキンス大学が実施するサマープログラムがあり、アメリカ国内にとどまらず、世界中から参加者が集まるのが特徴。フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグも過去に参加しています。
州によってギフテッド向けのプログラムは異なります。公立学校における代表的なギフテッド教育の方法を3つ見ていきましょう。
エンリッチメント方式
ギフテッドの子どもも、普段は他の子どもたちと一緒に過ごすのがエンリッチメント方式。通常学級の中で、ギフテッドの児童や生徒には難しい課題を出したり、各種コンテストなどへの参加を促したりするなどして才能を伸ばす機会を与えます。
プルアウト方式
ギフテッドの子どもたちが集まって学ぶ機会を作るのがプルアウト方式です。普段は通常学級で学びながら、定期的にギフテッドの子どもだけを集めた学校などで学習します。
ハイレベルな学習が可能になることに加えて、ギフテッドの子ども同士がコミュニケーションを取る機会を作ることも目的の一つと言えるでしょう。知能レベルが近いギフテッドの子ども同士だとより深く理解し合えることもあるのです。
アクセルレイト方式
アクセルレイト方式は日本でいう飛び級です。能力の高さゆえに同年代と一緒に学習するよりも上の年代と学習した方がいいと判断された場合に、1学年上に所属したり1段階上の学校に進んだりします。
ほかにも、ホームスクール方式と言われる自宅学習を中心にした方式や、夏休みにギフテッドの子どもを集めて集中的に教育するサマースクールなど様々な教育方法があります。
日本でもギフテッド教育がスタート!
日本の教育では、全員が同じ教育を受けて、同じ到達点を目指すような考えがベースにあるため、ギフテッド教育にはなかなかなじみません。しかし、時代の変化に対応するために、2017年に渋谷区が公教育で初めてギフテッド教育をスタートさせました。
渋谷区のギフテッド教育は専用の学校を作るようなものではなく、年度ごとの期間中に数回の特別講義を行う形。様々な業界を代表する人物による講義など、ハイレベルで興味深い内容が扱われます。
2017年のスタート時点で渋谷区は、全体か特定の分野で高い能力を発揮することに加えて、学校生活への適応に難しさのある児童や生徒などを対象としています。
初の試みとして行われ、今後対象や内容を変更するなど新たなステップへと進んでいきそうですね。
まとめ
ギフテッド教育はアメリカなどでは盛んな一方、日本ではほとんど取り入れられていない教育方法です。
ギフテッドの子どもは学習能力や思考能力が高いだけではなく、好奇心が強いなど様々な特徴を持っています。得意な分野もそれぞれで、音楽や運動なども含まれることを知っておきたいですね。
また、様々な能力が高い一方で、感覚が過敏で生きづらさを感じる場合も少なくないと言えます。ギフテッドの子どもが才能を発揮していくためには周囲の理解も必要になっていくでしょう。
渋谷区がギフテッド教育に一歩踏み出したように、日本でもギフテッド教育が徐々に浸透していくことが予想されます。今後の動向に注目したいところですね。
✔ギフテッドとは、生まれつき特別な才能を持っている子ども。
✔ギフテッド教育は、その才能を潰すことなく、伸ばしていくためのもの。
✔公教育では2017年に渋谷区でスタートしたばかり。