文部科学省がキャリア教育の推進を進めているのはご存知でしょうか。近年になって高校生にも手厚い教育が施されるよう整備が始まっています。
そこで今回は、高校でのキャリア教育の具体例・取組みについて解説します。
目次
キャリア教育とは
まず、国が定めたキャリア教育の定義は下記の通りです。
一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育
(引用元:文部科学省『キャリア教育の必要性と意義』)
簡単に言い換えると、「自立して生きていくための個性やスキルの習得を、教育的に働きかけていきます。」というようなものになります。
AI(人工知能)の発達に伴い、日本の社会は目まぐるしく変化しています。子供だけでなく、大人でさえもこの先の日本の未来を予測するのは難しいでしょう。そんな「先行きの不透明な日本社会に対応できるように、教育面で働きかけていこう」というのがキャリア教育の裏にある意図だと考えられます。
キャリア教育で学ぶものを例に挙げると、社会人になった際に必要となる規律やスキル。科目ごとの特性を活かし、社会性の高い知識や経験を教育面でしっかり支援していきます。
なぜ高校でのキャリア教育は必要?
高校生期は、社会人になる一歩手前の時期ということもあり、自らのキャリア形成を考えなければいけません。そこで、キャリア教育では、「学ぶことの意義」「学ぶことの価値」に触れつつ、自立する際に必要となる判断力や価値観を体験活動を通して学習できるように働きかけます。
また、高校生期は自我を持ち、心身ともに成熟することで人間関係や与えられる役割が増えてくる時期でもあります。しかし、そういった成長の反面、まだストレス耐性や社会性に未熟さが見られるのも事実です。自分に自信が持てないという生徒も少なくありません。
そういった生徒達に対しては、社会人に必要な価値観や体験活動を通して精神面の補強を促しいきます。学ぶことで社会に出るための自信を得ることもできるでしょう。
高校におけるキャリア教育の現在
生徒がキャリアについて理解するうえで、実際に職場を体験するのは非常に有効な手段と言えます。
しかしその機会となる「インターンシップ」の実施は、高校生において少ないのが現状です。特にこの傾向は普通科もしくは、英語科・理数科など職業以外の専門学科を設置する高校で顕著に表れています。
実際に国立教育政策研究所が平成22年に発表した『自分を社会に生かし、自立を目指すキャリア教育』によると、公立高校各学科のインターンシップ参加状況は以下の表のようになります。
普通科 | 15.2% |
職業に関する専門学科 | 63.0% |
その他の専門学科 | 13.2% |
総合学科 | 44.1% |
職業に関する専門学科と比較すると、普通科・その他の専門学科のインターン参加率は4分の1以下です。
また高校生のインターン実施率は中学生よりも低い点も見逃してはなりません。国立教育政策研究所の調査によると、公立中学校のインターンシップ(職場体験)参加率は96.5%です。ほぼ全ての公立中学に通う中学生がインターンに参加しています。
中学生よりも高校生の方が社会が間近に迫っているにもかからわず、高校生の方が実社会を体験する機会に恵まれていないのです。そのため高校生へのキャリア教育の推進が求められていると言えます。
高校におけるキャリア教育の取り組み
キャリア教育は小学校・中学校・高校、それぞれの特徴によって取り組み方が違ってきます。
そこで以下にて、「高校生の生徒がどのようにキャリア教育に取り組んでいるか」を紹介していきます。
系統的なキャリア教育の取り組み
高校生は入学後、喜んでいられるのはほんの一瞬。専門性の高い知識、レベルが数段上がった教科の勉強ばかりでなく、社会人としてキャリアも考えていかなければいけないのです。
キャリアは勉強と違い、正解がありません。あくまで世間的に見てどうかという判断基準でしかないのです。つまり、高校生は勉強や部活動のかたわら、答えのない問題に向かって立ち向かい続けれなければいけません。
そのため高校期では、生徒をサポートするという意味で入学から高校まで系統的なキャリア教育の指導を行っていきます。
例えば、ホームルーム活動や総合の時間のみを生徒主導の時間とするのではなく、日々の授業や部活動においても教員との共通理解の基、キャリア教育に取り組んでいきます。
そういった活動を通し、生徒は自己理解を深め、社会に出ても問題のない人間関係の構築方法などを学んでいくのです。
教科別の取り組み
キャリア教育は教科の授業の中にも組み込まれようとしています。文部科学省が発表する『高等学校キャリア教育の手引き』を参考に各教科のねらいや実践例を紹介していきます。
- 外国語
外国語の授業の目的は言語・文化に対する理解の深化や、主体的にコミュニケーションを取ろうとする態度の育成、適格に発信・理解できるコミュニケーション能力の伸長です。
そのための授業として、人生に共通点のあるアンネ・フランクとオードリーペップバーンを取り上げ、その生き方について生徒同士で話し合わせることが例示されてます。 - 国語
国語では、言語活動の充実させるとともに生きる力を養成するのがねらいです。具体的に言うと、自らの役割や価値観だけを重要視するのではなく、他者と自分との関係を紐解く思考などを育成していきます。
これを実現するために、ペアワークやグループワークを授業に盛り込み「話すこと・聞くこと」を重視する実践例が挙げられています。 - 数学
数学における基本的な概念や原理を体系的に理解し、数学的根拠を用いて判断できる態度を育成していきます。
これまでにはなかった「議論」を授業中に取り入れ、社会性と言語活動の充実を可能にする実践例が提示されています。 - 理科
昨今の化学や科学技術の発展は大変めざましく、生徒がこれに対応できるようにと学習内容が見直されています。
これを実現するための実践例として挙げられているのが、日常で使われる科学技術の有用性や意義を扱うことです。
実際にキャリア教育を実践している高校例
以下にて、キャリア教育を実践している高校を3つ紹介していきます。
兵庫県立加古川北高等学校
加古川北高校は、兵庫県の加古川市に校舎を構える中堅進学校です。
文部科学省が指定する研究開発学校として同校は、一般的な学校があてる総合的な学習の時間の代わりに「公共」という科目を創設しました。
公共の授業は3つの柱「キャリア教育」「道徳教育」「課題教育」を軸に進められています。この中のキャリア教育で特に力を入れられているのが、ジョブシャドウイングです。ジョブシャドウイングとは、生徒が実際に企業へ赴き働いている姿を観察するもの。加古川北高等学校では、夏休みにインターンシップと平行して実施されています。
観察を行うだけのジョブシャドウイングよりも、実際に職業を体験できるインターンシップの方が職業観を理解するのに適していると考えた方もいるかもしれません。ジョブシャドウイングの魅力は、赴ける企業の幅が広がることにあります。
インターンシップでは基本的に、専門的な知識や事務作業の仕事を体験することはできません。しかしジョブシャドウイングならば、生徒が行うのは観察だけであるため、そのような職場にも足を運べるのです。
加古川北高校は進学率の高い学校であるため、生徒は将来的に専門知識を必要とする仕事や、事務作業を行う仕事に従事する割合が高いでしょう。そのためジョブシャドウイングを通して、生徒は自分が従事する可能性の高い仕事に生で触れられるようになります。
このように加古川北高校のキャリア教育は、生徒に将来の自分をよりリアルに体感させられた事例の一つだと言えるでしょう。
参照:リクルート進学創研『ジョブシャドウイングを組み込んだ独自教科「公共」で社会人基礎力を育成』
和歌山県立桐蔭高等学校
和歌山市内に校舎を構える桐蔭高校は、2019年に創立140年を迎えた普通科・数理科学科の2学科を持っています。
同校で進められているキャリア教育の取組みの一つが、「キャリア桐の葉」という授業です。この授業は、一般的な高校が行っている「総合的な学習の時間」の代替として設計されました。
この授業でまず行われるのが、学ぶ意味の理解を促すことです。教科・部活・特別活動で得られた学びをどのように人生に役立てていくのかがまとめられた教材「桐蔭の学び入門」を用いてオリエンテーションを実施します。
それを踏まえて、生徒が数人のグループを作って教員にインタビューし、学ぶ理由をまとめた報告書を作成します。この活動が「学ぶ意味」知る機会となり、生徒は将来を見据えながら勉強に取り組めるでしょう。
またこの活動の次に行われるのが、社会貢献などキャリア設計に関するテーマを扱う「桐蔭リーダー塾」です。この取組みでは招かれた社会人講師20名がテーマについての講話を行い、それを基に生徒がグループを組んで与えられたテーマについてまとめて発表を行います。そして最後には講師からのフィードバックが与えられます。
このように桐蔭リーダー塾は、生徒と先生だけで完結してしまう授業でありません。和歌山県で活躍する社会人が携わっているため、生徒はよりリアルにキャリア形成について考えられるのでしょう。
参照:
和歌山県立桐蔭高等学校『本校のキャリア教育』
リクルート進学創研『自ら人生を切り拓く人を育てる 「なぜ学ぶのか」から始まるキャリア教育/桐蔭高校』
麴町学園女子高等学校
麹町学園女子高校は、100年以上の歴史を持つ中高一貫の女子高校です。
同校のキャリア教育の取組みの一つが「みらい科」です。社会に対応するための力を養うために、中学1年生から高校2年生まで5年間かけた指導を行っています。取組み内容は生徒の年次ごとに難易度が上がるようになっており、中学生期には戦争経験のあるOGの講話や、職業インタビュー、職場体験などが実施されます。
そして高校時には、地元企業とのコラボ商品開発や学園祭のイベント企画など社会人の疑似的に体験できる活動が実施されています。
また5年間の集大成として行われるのが「みらい論文」です。生徒は何でも自分の好きなことをテーマに論文の執筆を行います。この論文をきっかけに、自分の興味のある分野に気づき大学の学部選びに役立てた生徒も少なくないそうです。
このように麹町学園女子高校のキャリア教育は、生徒の興味・関心を引き出しキャリアについて主体的に考えるきっかけを作った事例だと言えるでしょう。
参照:リクルート進学総研『思考し体験するキャリア教育 「みらい科」で継続的に学び「みらい論文」で興味関心を問う』
まとめ
ここまで、高校生におけるキャリア教育について紹介・解説をしてきました。キャリア教育について疑問をお持ちの方のお役に立てたら幸いです。
社会人としての生活が目前に迫る高校生期だからこそ、キャリア教育はとても重要なものとなります。
それぞれの教科の特性に合わせたキャリア教育を系統的に学ぶことで、自立する力を確実に身に付け、他者に誇れるようなキャリアを育成できる生徒へと育っていくのです。
キャリア教育にはコーチングが最適です。ぜひコーチングを体験してみてください。
✔️加古川北高校(兵庫県):生徒が企業へ赴き働く姿を観察する、ジョブシャドウイングに力を入れる
✔️桐蔭高等学校(和歌山県):20名の社会人による講演を聞き、与えられたテーマについてグループで発表
✔️麹町学園女子高校(東京都):独自科目「みらい科」を5年間通して行う