- キャリア教育とは簡単に言うと、子どもが自分らしく生きられるようにすること
- 意義は、社会の激しい変化に流されないような「生きる力」を養うこと
- 育成するのは「勤労観・職業観」と、4つの要素で構成される「基礎的・汎用的能力」
- 今後は授業に積極的に取り入れられるのに加え、地域社会との連携が目指される
こんにちは!スタスタ編集部です。近頃「キャリア教育」という言葉を耳にする機会が、増えてきましたよね。しかしこのキャリア教育という言葉は非常に幅広い範囲で用いられているため、具体的な意味や内容について明確にご存知の方は少ないのではないでしょうか?
そこで今回は、キャリア教育の定義や背景、意義などから分かりやすく解説していきたいと思います!
目次
キャリア教育とは
文部科学省によるキャリア教育の定義は以下の通りです。
キャリア教育とは、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して, キャリア発達を促す教育」
またキャリアについても定義付けがなされています。
キャリアとは、「人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で,自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」
これらを踏まえてキャリア教育をわかりやすくまとめると、「一人ひとりが自らの価値を見つけて、自分らしく生きられるようにする教育」と言えるでしょう。
キャリア教育推進の背景と意義
キャリア教育推進は、グローバル化や情報化、少子高齢化による急速な社会・雇用構造の変化が大きく関係しています。実際、ここ10年ほどでスマートフォンが私たちの生活を大きく変え、最近では終身雇用の崩壊も叫ばれていますよね。
このような状況から子どもたちは、理想とする大人のモデルを見つけるのが難しくなってきています。そのため子どもたちは、自分の希望溢れる将来を描けなくなってしまっているのです。
また社会の急激な変化が、社会的・精神的発達にも影響を与えているとも言われています。実際に、日本の子どもたちの自己肯定感や人間関係構築力、意欲、将来への希望などは、相対的に低い水準にあります。以下の表で、日本と諸外国の子ども・若者が持つ意識の差について確認してみましょう。
自分自身に満足している | 友人関係の満足度 | 上手くいくか分からないことにも意欲的に取り組む | 将来への希望 | |
日本 | 45.8% | 64.1% | 52.2% | 61.6% |
韓国 | 71.5% | 70.2% | 71.2% | 86.4% |
アメリカ | 86.0% | 79.7% | 79.3% | 91.1% |
イギリス | 83.1% | 76.8% | 80.1% | 89.8% |
このように現代日本の子どもたちは、社会的・精神的成長が遅れてしまっているのです。そのためキャリア教育を推進して、この状況を打破することが求められています。
この背景からキャリア教育推進の意義は、社会の激しい変化に流されず、自立して困難に対応できる「生きる力」を養うことにあると言えますね。
キャリア教育の現状
1999年にキャリア教育が提唱されてから、長い年月が経っています。では現在の学校におけるキャリア教育は、どのような現状にあるのでしょうか?
小学校
- 約8割の学校がキャリア教育担当者を配置しているが、その多くは兼任である。
- キャリア教育の全体計画の作成は6割、年間指導計画の作成は5割程度の学校にとどまる。また年間指導計画に「キャリア・カウンセリングが含まれている」割合は、1割を下回る。
- 「基礎的・汎用的能力」に関する教員の理解が不十分であり、キャリア教育に関する校内研修に参加したことがな教員も6割を超える。
中学校
- 職場体験活動はほとんどの学校で実施されており、第2学年での実施率が 89.5%と最も高い。
- 多くの生徒や卒業者が将来の生き方や進路を考える上で日々の授業が役立つと回答していることを踏まえると、職場体験活動にとどまらず、教育活動全体を通じたキャリア教育の充実を図る必要がある。
- 保護者の期待は進学支援に限定されてはおらず、生徒の社会的・職業的自立を目指した多様な キャリア教育を望んでいる。
高校
- キャリア教育の全体計画は7割、年間指導計画は8割の学校で作成されており、計画的な実践の定着が進んでいる。
- 約5割の担任が、キャリア教育に関する校内研修に「参加したことがない」
- 就業体験の実施は各学年共通して「0日」が最多だが、保護者や卒業者の期待は高い
- 就業体験・社会人講話などの体験的学習の実施については、職業に関する専門学科が 95.9%と最も高く、総合学科 81.9%、普通科 74.6%の順であった。
中学・高校にかけてはキャリア教育の計画・実施が着実に広まってきてはいますが、内容の充実がより一層期待されます。また同時に教員のキャリア教育に関する研修を、実施していく必要があるでしょう。
キャリア教育の課題
キャリア教育で何をすればいいのか分からない教員がいる
「キャリア教育=職業体験」のイメージが強い方もいらっしゃるのではないでしょうか?小学生でも高校生でもできるキャリア教育の活動は何があるのでしょうか?
生徒(と保護者)が期待するキャリア教育と教員による実践の齟齬
キャリア教育の機械の確保と評価方法
新学習指導要領との関係は?
キャリア教育は新学習指導要領においてどのように述べられているのでしょうか?
小中高ともにキャリア教育の充実について述べられています。小中学校では学級活動を中心に、高校ではホームルーム活動を中心に教育課程全体を通じて必要な資質・能力の育成を図っていく取組が重要です。またその取り組みをさらに良いものにするために、学びの過程を記録し振り返ることができる教材、キャリアパスポートの作成も求められています。
キャリア教育で育成される力
では、キャリア教育で実際にどんな力が養われるのでしょうか。キャリア教育の定義に、「社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てること」とありますが、能力・態度が具体的に何を指しているのか分かりませんよね。
中央審議会はこの能力や態度を「基礎的・汎用的能力」と提示しています。それでは詳細を確認してみましょう。
基礎的・汎用的能力
基礎的・汎用的能力は、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つの能力で構成されます。
以下でそれぞれの能力について、確認してみましょう。
- 人間関係形成能力・社会形成能力
具体的に人間関係形成能力を言い表せば、他者の意見に耳を傾けながら、それを基に自分の考えを正確に相手へ伝える力です。また社会形成能力は、状況に合わせた自分の役割を把握し、それに沿って他者と協力し、社会に参画する力です。
この2つを象徴する具体的なスキルとしては、リーダーシップやチームワーク、他者の個性を理解する力、コミュニケ―ションスキルなどが挙げられています。 - 自己理解・自己管理能力
自己の理解において大切なのは、自分のできること・したいことを理解することです。そして、そのための主体的な行動力が求められています。また、自己管理能力は、自らの成長のために、感情を律して進んで勉強する力です。
自己の役割の理解や忍耐力、前向きに考える力、ストレスマネジメントなどがこの能力に該当します。 - 課題対応能力
課題対応能力と聞いて、あなたは何を想像しましたか?「課題解決能力」が真っ先に浮かんだという方も少なくないのではないでしょうか。しかし文部科学省が提示する課題対応能力が意味するのは、それだけではありません。課題の発見・分析と、それを基に計画を立てる力も、課題対応能力には含まれています。
この能力の要素には、本質の理解や原因の追究、計画立案、実行力が挙げられています。 - キャリアプランニング能力
この能力は、自分なりの「働く」ということへの意義と役割を見出し、そしてそれに基づいて主体的な判断でキャリアを形成していく力です。
この能力を構成する要素として、多様性の理解や将来設計が挙げられています。
勤労観・職業観
また中央審議会は基礎的・汎用的能力の他に、「意欲・態度及び価値観」も自立のために必要な要素として挙げています。人は自らの価値観に基づいて行動するので、価値観が能力育成の基盤となることから重要視されているのです。そして価値観の中でも、とりわけキャリア形成に関係する「勤労観・職業観」の形成が必要とされています。
勤労観・職業観の形成を支援するうえで注意しなければならないのは、「一律の正しい勤労観・職業観はない」ということ。これは人によって生き方は様々なので、勤労観・職業観も人それぞれで良いからです。そのため子どもたち一人ひとりが、自分にとっての働く意義や目的を見つけるのが大切なのです。
「正しい勤労観・職業観がないなら、何を基準に形成の支援をするの?」と疑問に思った方もいるかもしれません。勤労観・職業観の形成で目指されるのは、「望ましさ」です。多様性を大切にしながらも、社会倫理に大きく外れたものが形成されないように、共通の土台を設けているのだと考えられます。
「望ましさ」の要件は、文部科学省から提示されています。以下から確認してみましょう。
- 職業には貴賤がないこと
- 職務遂行には規範の遵守や責任が伴うこと
- どのような職業であれ,職業には生計を維持するだけでなく,それを通して自己の能力・適性を発揮し、社会の一員としての役割を果たすという意義があること
- 一人ひとりが自己及びその個性をかけがえのない価値あるものとする自覚
- 自己と働くこと及びその関係についての総合的な検討を通した,勤労・職業に対する自分なりの備え
- 将来の夢や希望を目指して取り組もうとする意欲的な態度
これらを踏まえると、職業観では「職業に優劣はなく、それぞれに明確な価値があるということ」、勤労観では「自分のしていることは、社会だけでなく自分の成長のためにも価値あるものだということ」を認識するのが重要視されていると言えます。
キャリア教育の方向性
文部科学省はキャリア教育の具体的な方向性として、4つの取組みを提示しています。以下からそれぞれをご確認ください。
- 学校における体系的・系統的なキャリア教育実践の促進
小・中学校では学級会などの特別活動を中核にしつつも、学校行事や総合学習の時間、個別指導の進路相談など、学校の教育活動全体を通じたキャリア教育の推進が求められています。高等学校ではホームルームを中心として、総合的な探究の時間や公共の授業、個別指導としての個別指導など、こちらも学校の様々な活動からキャリア教育を推進していくことが方向づけられています。 - 職場体験活動やインターンシップなどの職業に関する体験活動の充実
普通科の高等学校で行われようとしているのが、アカデミックインターンです。大学等の卒業を前提とする資格が必要な職場も含めた職業体験を充実させようとしています。 - 学校と地域・社会や産業界等が連携・協働した取組の促進
小学校から高等学校までを通し、地元理解と愛着を深めるキャリア教育や、職場体験・インターンシップ受け入れ先企業の拡大が方向づけられています。 - 児童生徒が活動を記録し蓄積する教材等(キャリアパスポート)の活用
普及と定着を推進されているのが、「キャリアパスポート」です。これは、生徒自らがキャリア活動に関する活動のプロセスを記述し振り返れるようにする教材です。
実際にこれを用いた青森県と兵庫県の事例では、「新たな学びの動機付けに繋がった」「自己肯定感の高まりが見られた」「課題解決能力が身に付いた」などキャリアパスポートが生徒の変容をもたらしたそうです。
キャリア教育の効果
ここまでキャリア教育の概要をお伝えしてきましたが、キャリア教育を行うと子どもにどのような変化が起こるのでしょうか?得られる効果としては、学習意欲の向上としごと観の醸成と言えます。それでは見ていきましょう。
学習意欲の向上
国立教育政策研究所が発表した「キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査」によると、 充実した計画のもと実施している学校ほど、学習意欲の向上が見られます。
充実度が低い学校 | 充実度が中程度の学校 | 充実度が高い学校 | |
小学校 | 9.7 | 20.2 | 45.1 |
中学校 | 21.4 | 38.5 | 55.1 |
高校 | 31.3 | 46.6 | 65.4 |
小学校では充実度が高い学校ほど「相手の意見を聴き理解しようとすること」「苦手・不得意なことでも自分の成長のために進んで取り組むこと」などを、学級担任が生徒に働きかけています。また各教科ごとのキャリア教育の実施率は、87.2%と高いです。例えば算数ではペア学習やグループ学習で、「どうしてその式を使用したのか」などの設問で課題対応能力、人間関係形成能力を養っています。
中学校では将来の生き方や進路を考える上で役に立った活動は、日々の授業が93.1%、部活動が85.5%、委員会が84.6%となっています。これらの活動は単体で終わらせるのではなくつなぎ合わせることが重要です。そのためにeポートフォリオやキャリアシートなどを使用し、次の機会に活かしましょう。
高校では就業体験や職場体験などの体験活動を実施している割合は、およそ6割と広まってきています。職業体験は自分たちが実際その職業をやるので効果はもちろん現れますが、さらに効果的にするためにはマナー指導や振り返りなどの事前事後講習をきちんと実施するのが良いでしょう。
しごと観の醸成
しごと観育成研究会が2017年に全国の高等学校18校、4679名の高校生を対象に調査を実施しました。調査目的は高校のキャリア教育が高校生にどのような影響を与えたのか、そしてキャリア教育としごと観の関係などについてです。 しごと観とは、仕事そのもののイメージや将来の仕事に対する考えなどを指します。
今回の調査では、キャリア教育の体験・仕事がしごと観を醸成するものの、プログラムの個数が増えてもしごと観は変わらないと判明しました。
プログラムを受講し、活動の準備やまとめを行なった生徒は、仕事のイメージや将来の展望の明るさの水準が高いです。つまり、キャリア教育プログラムに対する取り組み姿勢が、積極的かどうかによりしごと観が変化していると言えるでしょう。
企業も注目
キャリア教育を推進しているのは、学校だけではありません。そもそも学校だけでキャリア教育を実施するのには無理があります。キャリア形成に関係する「勤労観・職業観」の形成は、実際に働く人に話を聞いたり体験することが必要だからです。
そのため、最近では企業が学校に赴きキャリア教育を支援しています。例えばパラソニックでは、「教育プログラム」や「私の行き方発見プログラム」などを小中高生に提供します。 企業の人が授業を実施することで、自分たちの身の回りにあるモノを教科と関連させやすくなり、また会社での働きがいなどを知ることができます。
学校の事例
ここからは小学校・中学校・高校が実際どのようなキャリア教育を行なっているのか紹介します。
小学校の取り組み
神奈川県川崎市立苅宿小学校では、地元商店街と連携しキャリア教育を実施しています。
まず小学校1年生次には学校で働く人々にインタービューを行い、発表します。そして小学3年生次で学校の外に目を向けて、地元の商店街で体験学習を行います。家族や学校の領域を超え、地元の人と関わることで地域の一員としての自覚が芽生えているそうです。また働く人の様子や工夫・努力を目にすることで相手を思う言動の重要性などを実感し、実生活での実践を目指しています。
中学校の取り組み
中学校でのキャリア教育というと、職場体験を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか?宮城県仙台市立柳生中学校では、地域や産業界と連携・協力体制を築き、3年間の年間指導計画を作成しています。
1年生では、ライフプランの作成、地域の社会人による職業講話、そして職場訪問など社会人と触れ合う機会が多くあります。2年生では、農家や水産業を営む家に民泊、地域の事業所で職場体験を実施しています。職場体験後の発表会は1年生と合同で行い、活動に対する意識を高め合います。 3年生では経験を踏まえて、修学旅行で主に首都圏の企業訪問をし、インタビューを行います。そして3年間のまとめの後、1年次のライフプランを見直して、発表会を行っています。
1年生次から様々な職業にふれ、段階的に勤労観・職業観の形成を行なっています。
高校の取り組み
長崎県立諫早高校では2016年から、グローバル講演会を実施しています。講演会というと人を招き、話を聞くだけに思えますが、諫早高校では 90分間の講演のあと、希望者を募り少人数で意見交換を行う120分のワールドカフェを開催します。
開催当初は教員が講師の選定からスケジュール調整まで行っていましたが、今ではグローバル講演会を生徒が企画・運営します。 他にも総合的な探究の時間で展開する「課題研究」や、小論文にもつながる複眼力や表現力の育成を目指す「CDA学習」などを行っています。
また早朝・休日の課外講座の廃止、自宅学習の精選など学校の拘束時間をできる限り軽減し、生徒が自由に時間を使えるようにしました。この結果、生徒が自主的にオリジナル手帳の開発や東大寺子屋などを始めました。また学期ごとの振り返りには、目指す生徒像に基づくルーブリックやポートフォリオを使用しています。
まとめ
キャリア教育について定義や背景、意義などから解説を行ってきました。キャリア教育について抱えていた疑問は解決できたでしょうか。
ちゃんと理解できなかったという方や、疑問点・不明点を持った方、キャリア教育で目指される能力を早くから塾で伸ばしたいという方は、是非スタスタLIVEにご相談ください!