皆さんは「ドルトンプラン教育」というメソッドをご存知ですか?ドルトンプラン教育とは、今から約100年ほど前に、アメリカのヘレン・パーカーストが始めた「自主学習」に重点を置いた教育法です。
今回の記事では、ドルトンプラン教育とはどんな学習方法なのか?ドルトンプラン教育をお子さまに受けさせたい保護者の方に向けて、メリットやデメリット、特徴について紹介します。
ぜひ参考にしてください。
目次
ドルトンプラン教育とは?
ドルトンプラン教育(Dalton Plan)とは、教育家ヘレン・パーカストが創案した教育メソッドで、アメリカのドルトン(Dalton)という街で発祥したことからこの名がつきました。
ドルトンプラン教育は、自主性と創造性を育む「自由」と社会性と協調性を育む「協同」の2つを原理として掲げ、これらを実現するため、「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」という3つの柱を基軸とした教育を行います。具体的には、年齢も学年も全く違う子どもが集う環境で、教師が生徒一人ひとりの能力に応じた学習計画を作成し、個別に指導していく、という教育方法です。
またこの時、教師の立場は「指導者」ではなく、アドバイスを与える「助言者」と位置づけられており、「ラボラトリー(実験室)」と呼ばれるスペースで、子供の相談に乗ったり見守ったりしながら教育を施していきます。
背景は?
続いてドルトンプラン教育とは、一体どのように生まれたのか?その誕生背景を解説していきましょう。
1905年頃のアメリカでは、違う学年の子供たちが一緒に学ぶ「単級小学校」が広く普及していました。単級小学校では、違った学年の子供たちを一度に指導しなければならないため、個別学習が中心となります。しかしながら個別学習には、教員の負担が重すぎるなど多くのデメリットが存在します。この単級小学校での問題を解決するために、ヘレン・パーカストは、ドルトンプラン教育というユニークな教育メソッドを生み出すこととなったのです。
パーカストは、イタリアでモンテッソーリ教育を学んだ後、アメリカでこの教育の普及に励みました。その後1919年には、アメリカ・ニューヨーク市に、4年生~8年生を指導する一環教育校を設立します。この学校は、幼児から高校生までの生徒を一貫教育する「ドルトンプラン学校」の原型とも言われています。その翌年1920年、マサチューセッツ州の小都市「ドルトン」で、さらに進化した体系的な教育法として、生徒が自主的に学習を進めていく「ドルトン実験室案」が誕生します。
日本でも、このドルトン学校の教育方法は画期的な指導法として受け入れられ、1923年には、成城小学校の沢柳政太郎らによって実践されたという記録もあります。また大正時代に、宮城県の師範学校などでも一部導入された歴史があり、ドルトンプラン教育は、14ヶ国語に翻訳され世界中に広がっていったのです。しかしながら日本におけるドルトン教育は「教師の怠慢」だという評価を受け、一時的なブームに止まりやがて衰退します。1970年代に入るまで、日本にドルトンプラン教育が再導入されることはありませんでした。
2つの原理とは?
ドルトンプラン教育には、「自由」と「協同」の2つの原理があります。まずは、教育方針からご覧ください。
- 自主性や創造性を育む「自由の原理」「自由の原理」とは、生徒のやる気や興味を引き出し、一人ひとりがやりたいことや考えたこと、そして実践方法を含めて自由に取り組める環境を整備することです。学習時間を十分に与え、じっくりと物事に取り組む姿勢を養い、子供たちが自主性や創造性を発揮できるように指導することが重要です。
- 社会性や協調性を育む「協同の原理」「協同の原理」とは、様々な年齢の人と交流しながら学校生活を送ることで、「集団の中の一人」として責任を持って行動を取れるようになり、価値観の違いや意見の相違などを理解しつつ、社会性や協調性を身につけることができます。
ドルトンプラン教育の3本の柱
続いて、ドルトンプラン教育の3本の柱について解説します。ドルトンプラン教育には、「ハウス」「アサイメント」「ラボラトリー」の3つを軸に、生徒一人一人の自主性や個性を伸ばす教育を行っています。
ハウス
まずは、教育環境を表す「ハウス」から。「ハウス」は、一般の教育法でいうところの「教室」に当たる環境です。ドルトンプラン教育では、学年もなく、年齢の違う生徒が一緒に学ぶ「ハウス」という環境で学習していきます。
ハウス内ではハウスアドバイザーとして学級担任が生徒の親のように振る舞い、常に生徒を見守っています。小学3年生までは芸術の授業などを学び、4年生から教科担任のもとで他の教科の授業も受講します。
アサイメント
続いては「アサイメント」ですが、まずは、ドルトンプラン教育の一日のスケジュールをご覧ください。
10:00 モーニングミーティング【朝の会】
10:15 プロジェクト/フリープレイ
11:00 ラボ/プロジェクト
12:00 ランチタイム
13:00 ガーデンプレイ
14:30 シェアリングタイム【帰りの会】
ドルトンプラン教育では、このような一日のスケジュールに則って子供たちが活動します。児童一人ひとりに応じて活動内容が異なり、教師が生徒に対して個別に指導していくのが特徴です。
アサイメントは、その名の通り児童に課題を与えつつ、意欲や集中力、そして考える力を養うようにデザインされており、楽しみながら好奇心や興味を追求していけるようにデザインされています。また何をいつまでに提出するという「期限」(約束)を守るということも、このアサイメントを通して身につけることができます。
ラボラトリー
最後に「ラボラトリー」についてですが、ラボラトリー(実験室)は、子供たちが専門性を高めたり、話し合いを集中して行えるような特別な空間です。
ラボラトリーとは英語で研究室(実験室)を指し、専門教科についてさらに高いレベルで深く学ぶことが目的です。ハウスアドバイザーと呼ばれる教師の授業だけでなく、専門分野の教師がこのラボラトリーで生徒のサポートをしていきます。専門性の高い学習を追求しているため「実験室」と呼ばれています。
ドルトンプラン教育の特徴
ドルトンプラン教育の特徴は、生徒の個性を生かす「自由」な教育と、社会で活躍できる「協同」を通した人材の育成です。
この2つの理念を習得するために、ドルトンプラン教育では、他にも以下のような取り組みを行っています。
ハウスの一体化のために様々なフェスを開催:ドルトンプラン教育の特徴となっているのが、違う年齢の生徒が一堂に会する「ハウス」という教育環境ですが、このハウスの一体化をより強固にするために、スポーツフェスやアートフェスなどのイベントも開催しています。
グローバルな人材の育成に向いている:ドルトンプラン教育を導入している学校は、グローバルな人材育成を目標に掲げており、海外研修を含めた英語教育を行う学校も増えています。
導入によるメリット・デメリットは?
ユニークな教育法が、子供の個性を伸ばしつつ、社会への適応能力を高めるドルトンプラン教育。
ドルトンプラン教育を導入することのメリットとデメリットには、どんなものがあるのでしょうか?
メリットは?
まずはメリットから確認してみましょう。メリットは以下のとおりです。
- 生徒の個性を伸ばせる:各自が興味を持った分野を自分のペースで学んでいけるので、生徒の個性を伸ばすことができます。
- 生徒に応じて授業をデザインできる:生徒の能力や研究テーマにそって、授業を自在に組み替えることができ、自由な発想に基づいた学習プランを立てられます。
- 生徒の自立心や責任感を育める:自分の学びたいことを自分で選択することや、集団の中の個人として学校生活を送ることで、責任感や自立心を育てることができます。
デメリットは?
ここまでドルトンプラン教育の良いところや受講することで起こるメリットなどを紹介しました。しかし物事に裏表があるように、この学習法にもデメリットは存在します。
- 教師のスキルが問われる:ドルトンプラン教育法では、教師はアドバイザーという立場です。生徒の資質を見抜き、その生徒に合ったアドバイスができる教師がいるかどうかで、子供の成長が影響されやすいというデメリットがあります。
- 日本では学べる場所が少ない:日本でドルトンプラン教育を実践している学校は、2019年9月現在東京と名古屋の2校しかないので、興味があっても、学べるチャンスが少ないというのもデメリットと言えるでしょう。
日本ではどこでドルトンプラン教育を受けられるのか?
ドルトンプラン教育が受けられる学校を2つご紹介したいと思います。
ドルトン東京学園 中等部・高等部
東京都調布市にある学校です。「子どもたちの主体的に学び、探究・挑戦し続ける姿勢を育むこと」を目標に、クラウドを活用したアサインメントを設けています。
対象年齢 13歳〜17歳
住所 東京都調布市入間町二丁目28番20
電話番号 03-5787-7945
The Dalton School
河合塾が東京と名古屋に展開するドルトンスクールです。1976年に河合塾がニューヨークのドルトンスクールと提携し、開校しました。1歳から参加できるコースを用意しており、幅広い年齢の子どもたちが通う学校です。
- 東京校
- 名古屋校
対象年齢 1歳〜12歳
住所 東京校:東京都渋谷区上原3-28-18 名古屋校:名古屋市千種区今池2-2-1
電話番号 東京校:03-3465-4301 名古屋校:052-735-1611
通学できる範囲に学校がない場合は?
日本国内には3校しかないため、通いたくても通えませんよね。そんな方におすすめなのが、オンラインコーチングです。
ドルトンプラン教育を採用しているわけではありませんが、自主性を育むことや、先生を「指導者」ではなく「助言者」と位置付けていることなど、ドルトンプラン教育と共通点があります。
ドルトンプラン教育でなくとも「自主性を持った子に育てたい」と考える方は、以下から詳細を確認してみてください。
まとめ
2019年4月、東京で新校が創設されることになり、ドルトンプラン教育は再び注目を集めています。
他者との「協同」と生徒の「自由」という2つの理念を元に運営されており、これからの国際化社会に必要な子供たちの資質を十分に伸ばせる素晴らしい教育メソッドです。
子供たちが自発的に生き生きと学び、そして社会に出た後も周囲の人たちとうまくコミュニケーションを取りながら、自分らしさを発揮していけるドルトンプラン教育は、21世紀に羽ばたく子供たちの未来を作る教育法と言えるのかもしれません。
✔️ドルトンプラン教育は、自主性と社会性を育む
✔️メリット:一人ひとりの個性を伸ばせる
✔️デメリット:日本にはたった3校しかない