皆さんは「フレネ教育」という教育メソッドをご存知ですか?今から約85年ほど前に南フランスの山村で誕生した「フレネ教育」は、日本ではそれほど知名度が高くありません。
しかしフレネ教育は、有名な「モンテッソーリ教育」や「レッジョ・エミリア教育」など近代的なオルタナティブ教育に影響を与えた教育法として、世界38ヶ国で実践されています。
「子どもの生活、興味、自由な表現」を尊重する画期的な教育方法として注目を集めるフレネ教育。今回はフレネ教育の成り立ちや原理、そしてフレネ教育を受けることのメリットやデメリットについて、詳しく解説していきます。
目次
フレネ教育とは?
フレネ教育は南フランスの農村で一小学校教師となったセレスタン・フレネ(1896-1966)が始めた新しい教育方法です。フレネ教育は、それまでのフランスで行われていた「大人から子供に押し付ける」伝統的な詰め込み教育ではなく、子供たちが主体となって「自由な表現」を取り入れた画期的な教育法で、世界中から注目されました。
現在、世界最高峰と言われる「レッジョ・エミリア教育」や「モンテッソーリ教育」にも影響を与えたといわれており、フレネ教育を実践している国は世界38ヶ国以上にも上ります。
フレネ教育の魅力は、生徒が自ら興味を持ったことを「自由テキスト」と呼ばれるテキストに、子供たち自身が書き記していくという自由な教育スタイルにあります。授業も教科書もいらないといったフレネのユニークな教育方法は、どのようにして確立されたのか?次項では、フレネ教育成立の背景について詳しく見ていきましょう。
教育法の成立背景は?
フレネ教育が生まれた背景には、まずセレスタン・フレネが抱えたある健康上の問題について言及するところから始めなくてはなりません。
1935年、第一次世界対戦に従軍したフレネは、戦地で毒ガスを吸引してしまい、肺と喉を負傷してフランスへ帰還することとなりました。体力がなくなり、あまり大きな声が出せないという状況の中で、フレネはバール・シュール・ルーという山間の小学校の教員として赴任します。南フランスの片田舎で暮らす農民の子供たちは、これまでフランスで行われていたような「大人が子供に強制する一方的な教育」に一切興味を示さず、声の出せないフレネは何とか子供たちが学習することに興味を持つようにと、様々な工夫を始めます。
フレネは授業のない午後には、子供たちを散歩に連れ出し「散歩教室」を開催します。そこで子供たちが見聞きしたことや興味を持ったことを、教室に戻って「自由テキスト」と呼ばれるテキストに自由に表現させることを始めたのです。
しかしフレネの教育方法は、伝統的な教育方法を重んじる人々の反感を買い、苦難の末に人里離れたピウリエの丘陵地帯でフレネは自分の学校を開設することとなります。新しい学校では、子供たちの書いた「自由テキスト」の活動の記録を活字として残そうと、教室に印刷機を持ち込むという画期的な方法を導入しました。その後もフレネは独自の教育メソッドを多数生み出し、彼の死後も続いた「学校教育運動」の礎となっていったのです。
大切にしている教育理念は?
続いて、フレネ教育の教育理念を見ていきましょう。フレネは「理性的共同体における人格の自己形成を目的とした教育学を、学習材と教育技術の土台の上に建設すること」が重要と解いています。
この教育理念に基づき、フレネ教育では生活を観察し、表現し批評し合うなかで生まれる興味の複合の探究のために、学習文庫や協同学習カード、計算や読み書きのためのカードを協同組合方式によって開発してきたという歴史があります。独自の学習教材や学校文集の作成、そして学校間通信などを次々と導入することで、教科書を使った一斉授業を廃止し、個性化と協同化の2大原理による自由な教育を確立することを目標として掲げました。
またフレネ教育では「子供一人ひとりを尊重すること」と「子供の興味や意欲を引き出すこと」そして「子供が失敗を恐れないように取り組めること」にも重点を置いています。子供たちが互いの良さを認め合いながら、自由に自分の意見を発表し、また他のクラスメイトからの批判や意見を聞けるようになるといった、相互理解を高めていくことも教育目標とされています。
フレネ教育の特徴とは?
「理性的共同体における人格の自己形成を目的とした教育学を、学習材と教育技術の土台の上に建設すること」という教育理念を掲げたフレネ教育。
他の教育法との相違点やユニークな特徴を以下にいくつかご紹介してみましょう。
授業の内容
フレネ教育では、「活動計画表」にしたがって学習するというスタイルをとっています。自分で決めた活動計画に則って、マイペースで学んでいけるのが魅力です。
また質問は、各自で教師に聞くことができるようになっています。自分の学習の進捗度を「マス」を塗りつぶして目で確認できるようになっており、2週間ごとに自己評価を発表し、クラスのみんなにも評価してもらうという様式をとっています。
以下では、実際にフレネ教育を実践している日本の学校を紹介しています。興味のある方はぜひご参照ください。
環境の特徴
フレネ教育では、年齢の違う子供たちが同じ環境の中で学びます。クラスは縦割りになっており、3歳~5歳、6歳~7歳、8歳~11歳のように3学年ぐらいの子供たちが一緒に活動するようになっています。
自分と違った年齢の子供たちが共に学ぶことで、年長者が年少者を助けることや、年長者を敬うことを学びます。
その他の特徴
フレネ教育では、生徒同士が意見交換を行うことを大切しています。
「朝の会」「帰りの会」の他に、親子の学習発表会や協同組合の集会など、とにかく意見交換の場が多数設けられているのが特徴です。各クラスに自分の意見を書き込める壁新聞なども設置されており、記入されたことを学級活動の話し合いのテーマにするようにしています。
子供は、このような経験を通して自分の意見を主張するだけでなく、他者との意見の相違や理解といった相互理解とコミュニケーション能力を身につけていくことができます。
導入によるメリット・デメリットは?
授業や教科書がないユニークな教育方法として、世界で注目されているフレネ教育。
実践していくことのメリットやデメリットは、どんなことがあるのでしょうか?
メリットは?
まずは、フレネ教育のメリットからご覧ください。
- 個性を尊重する:「自由作文」を通して自分の意見を表現をすることや、芸術活動や手仕事を通して自己表現する等、様々な活動に取り組みます。周囲の人に認められたりお互いに批判しあったりすることで、子供は自分の個性を尊重してもらうことや友人の個性を尊重することを学びます。
- 自主性を育む:フレネ教育では「活動計画表」を個々に作成し、子供たちが自主的に学習するスタイルをとっています。自分の学習成果をみんなの前で発表することで、さらに良いものを生み出そうという意欲を引き出せるというメリットがあります。
- 互いを思いやる気持ちを育む:年齢の違う子供たちが共に学ぶという学習環境であることから、フレネ教育で育った子供たちは、互いを思いやる気持ちを育むことができます。兄弟のいない一人っ子でも、年長者に可愛がられることや、年少者を可愛がるといったことを体験することができます。
デメリットは?
続いて、デメリットを見てみましょう。
- 実施校が少なく学べる環境が限られている:日本でフレネ教育を実施している学校が少なく、フレネ教育に興味を持っても、すぐに学べる環境がそれほど多くないというのがデメリットです。
- 教師によって能力に差が出る:フレネ教育では、生徒一人ひとりが違ったスピードで学習していくため、それに合わせて教師が的確にアドバイスをしていく必要があります。子供の能力を伸ばすためには、その子の得意なことや興味のあることを教師がうまくサポートすることが重要であるため、教師の力量によって生徒の成長に差が出やすいというデメリットがあります。
日本でフレネ教育は受けられるの?
日本でフレネ教育を受けられる学校は、「3つ」あります。決してまだ多いとは言えませんが、日本もフレネ教育の環境が整って来ていると言えるでしょう。
- ジャパンフレネ(東京都豊島区)
- 箕面こどもの森学園(大阪府箕面市)
- けやの森学園(埼玉県狭山市)
これらの学校については、以下の記事で詳しく紹介しているのでぜひご覧ください。
学校が近くにない場合
まだ学校数が少ないため、子どもを通学させるのが現実的ではない方も少なくないでしょう。そんな方におすすめなのが、オンラインコーチングサービスです。フレネ教育ではありませんが、子どもの自主性と個性を育むことを目的としている点で共通点があります。
フレネ教育でなくとも、「自分なりの人生を送れるようにしてほしい」と考える方は、詳細を確認してみてください。
まとめ
第一世界対戦後、南フランスで誕生したユニークな教育メソッド「フレネ教育」について解説しました。
フレネ教育は、生徒の自主性を重んじる教育スタイルで、生徒一人一人が自分のペースに合わせて学べる「活動計画表」を作って学習を進めます。また「自由テキスト」を導入することによって、幼い頃から自己表現をすることを学び、自ら意欲的に作文していくことや学ぶ意欲を育むことができる素晴らしい教育法です。フレネ教育は、現在世界で注目されている「オルタナティブ教育」の走りとも言われており、世界38ヶ国以上の国々に導入されています。
日本では、まだまだ実践校は少ないですが、子供の個性を伸ばし、学習意欲を高めるフレネ教育は、21世紀を生きる子供たちに求められる教育方法と言えるかもしれません。
✔️フレネ教育とは、子どもたちが主体となって学習を進める自由な教育方法。
✔️年齢が違う子供に囲まれながら、活動計画表に従って学んでいく。
✔️個性を尊重しながら、自主性を育むことができる。