中学校や高校、大学など、多くの教育現場でプロジェクト型学習が注目されています。社会で求められる能力を、学校で学び、育むことができる教育法です。
今回は、プロジェクト型学習の特徴や事例、メリット・デメリットなどをわかりやすく紹介しています。
気になっている保護者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
プロジェクト型学習とは?
プロジェクト型学習とは、PBL(Project Based Learning)、課題解決型学習とも呼ばれる学習法のことです。数学、英語など特定の科目を勉強するのではなく、プロジェクトや目標達成のために取り組む学習方法のことをいいます。
プロジェクトの目標を設定して、その目標を実現しようと考え行動するなかで、思考力や実践力など様々なスキルを身につけることが可能です。またチームを組んで課題解決へ取り組むことで、コミュニケーション力や課題探求力、自己表現力なども養われていきます。
結果よりも目標実現へ向けた努力する過程を大事にする教育法であり、近年、多くの教育機関でも導入されています。
背景は?
プロジェクト型学習は、1969年にMcMaster大学で開発された医学部中心のものだったのが、1990年代からプロジェクト型学習を取り入れる大学が医学部以外にも増え、普及し始めました。日本においても1997年に三重大学の医学部で導入されるなど、徐々に広がっています。
2012年の文科省中央教育審議会大学教育部会では、高校までの勉強から主体的なものへ、課題解決型学習によって質の高いものへ変わっていくことについて言及されました。今では国内の中学校や高校、大学でプロジェクト型学習を取り入れている教育機関も多く、実践的な教育手法への関心が高まっています。
学習の目的とは?
プロジェクト型学習の目的・定義は、三重大学教育学部のガイドラインを参考にすると、次の3つが挙げられます。
- 主体的学習を促す
- 問題解決やプロジェクト完成など問題を解決する中で進めていく
- 問題を解決する活動は個人だけでなくチームでも行う
そして、このようなポイントを重視しながらプロジェクト型学習を実施することで、自分で考え行動する力が身につき、社会に出ても必要な問題解決力や実行力等を養うことが可能です。
学習の進め方
プロジェクト型学習は、以下の流れで進めていきます。
- 問題・課題を発見する
- なぜ問題・課題があるのか、どうすれば解決するのか考える
- 実際に解決策を試してみる
- 解決策は適切だったか、どこを改善すればいいか検証する
このような流れで、個人・チームで問題解決活動を行い、実践的なスキルを身につけていきます。
また学校によっては、以下の3つの形式でカリキュラムが構成されます。
- ケーススタディ:問題解決への考え方やグループワークの仕方を実践的に学ぶ
- ワークショップ:チーム全員で協働する重要さや意見の主張、考えを形にすることを学ぶ
- プロジェクト:問題・課題に対する解決案を提案して自己表現力など総合力を学ぶ
プロジェクト型学習によって、自己認識や他者理解、協働、価値創造などを深めていくことが可能です。
プロジェクト型学習の5つの特徴
ここでは、プロジェクト型学習の主な特徴について見ていきましょう。
どのような特徴があるかを知っておくことで、他の教育法との比較もできますし、学ぶ本人に合うかどうか判断ができます。
期限が決まっている
プロジェクト型学習の特徴の1つが、期限が決まっていることです。
問題解決といっても、いつまでも時間をかけていいものではありません。デッドラインが決まっていることで「いつまでに何をしないといけないか?」と、逆算して行動スケジュールを立てられるようになります。
プロジェクト型学習を導入することで、社会に出る前から納期を気にして計画・行動できる習慣を身につけることが可能です。
チュートリアルと実践の2つの手法がある
プロジェクト型学習は、以下2つの手法で学ぶことができます。
- チュートリアル型:チュートリアル型では、架空の問題・課題やストーリーをもとにして学習をします。仮想のストーリーがもとになるため、必要性に応じた課題に取り組めるのが特徴です。外部へ取材に行ったり、企業での研修や協力要請が必要ないため、学校では主流となっています。
- 実践体験型:実践体験型では、チュートリアルのように仮想のストーリーではなく、実際の問題・課題をもとに学習します。実社会と連携して学ぶため、チュートリアルでは難しい、リアルな問題解決の過程を体験することが可能です。ただし自治体や企業、団体との連携が必要になるため、実現は容易ではありません。
成果を生み出す
「◯◯の問題を解決する案を見つける」「△△課題の解決に効果的な方法を見極める」など、プロジェクト型学習は目標を持って行います。これらの目標をクリアするため、成果を生み出すことを目的として活動をします。
もちろん、目標をクリアできないことも多いですが、その場合も何が悪かった・良かったのか整理し、改善して次へ活かします。成果を生み出すというゴールがあるからこそ、学生も多くのことを学べるのです。
S-PDCAサイクル
S-PDCAサイクルとは、以下のようにPDCAにS(Start)を加えたものです。
- Start(立ち上げ)
- Plan(計画)
- Do(実行)
- Check(評価)
- Act(改善)
プロジェクト型学習は、自分たちで問題や課題を見つけることから始まるため、S-PDCAサイクルと考えることもできます。PDCAは、社会に出ても必要な考え方です。プロジェクト型学習を通じて、学生のうちから考え方が染み付きます。
チームで取り組む
プロジェクト型学習は1人で取り組むものではありません。1人でアイデアを出して計画を立て、行動することは大変なことです。
プロジェクト型学習の場合はチームで取り組むため、1人でやるのと比べてハードルが低くなっていると言えます。またチームメンバーと意見を出し合うことで、様々な角度から物事を見ることができます。多くの人の考え方を参考にでき、視野を広げる効果も期待できます。
導入によるメリット・デメリットは?
プロジェクト型学習を導入している学校で学ぶことには、いろいろなメリット・デメリットがあります。
どのようなメリット・デメリットがあるかも把握をして、最適な教育法か判断をしましょう。
メリットは?
プロジェクト型学習を導入している学校で学ぶ主なメリットは次のとおりです。
- 問題解決能力が身につく:プロジェクト型学習は、問題や課題を見つけ、仮説を立て、解決案を実行する学習法です。学生の頃から問題解決活動を繰り返すことで、問題解決能力が身につきます。
- リーダーシップやフォロワーシップ:プロジェクト型はチームで行います。チーム、プロジェクトごとにリーダーとリーダーを支えるフォロワー必要です。それぞれの立場を体験することで、リーダーシップ・フォロワーシップの役割や重要さを知ることができます。
- 分析力や考察力が身につく:問題・課題を見つけるためには、物事を様々な角度から見て考えなければなりません。また解決案を出すにも、問題や課題を分析して根本的原因を探る必要があります。問題解決授業であるプロジェクト型学習を通して、分析力や考察力が身につきます。
- コミュニケーション能力が高くなる:プロジェクトを進めていくには、チームの皆と協働しなければいけません。また、実践体験型であれば、外部の人と関わることも多くなります。
- 助け合う大切さを知る:プロジェクトが上手く進まないこともあります。そのようなときでも、チームメンバーと助け合って活動していけるのがプロジェクト型学習の特徴でもあります。協調性や助け合う大切さを知ることができます。
- 自分で計画して実行する力が身につく:プロジェクトの納期から逆算して必要なスケジュール計画を立てるため、自分たちで計画・実行する力が身につきます。どのような進路・仕事に進んでも求められる能力の1つです。
プロジェクト型学習を受けることで、このようなメリットがあります。
デメリットは?
プロジェクト型を受けるメリットだけでなく、デメリットについても見ていきましょう。主なデメリットは以下の2点です。
- 評価が難しい:プロジェクトの中で学習目標を立て、評価することが難しいのがデメリットです。入口と出口が不明瞭ですし、プロジェクトにはチームで取り組むことが多いため、個人を適切に評価することは容易ではありません。
- 誰にでも合うわけではない:どの教育法にもいえることですが、プロジェクト型学習も合う・合わないがあります。この教育法を通して大きく成長する生徒もいれば、あまり効果が見られない生徒もいます。誰にでも高い効果が期待できるわけではありません。
このようなデメリットがあることも理解しておきましょう。
導入事例
ここからは、プロジェクト型学習を実際に導入している中学校・高校・大学の取り組みについて見ていきましょう。
学校によって導入事例は異なりますが、どのような取り組みをしているのか参考になります。
中学校
横浜にある聖光学院中学校高等学校では、体験型学習講座の聖光塾を開講しています。年間に約40の講座が開かれており、生徒はいくつでも自由に学びたい講座を選択できます。長期休みなどを利用して実施されていて、1回で完結するものもあれば、定期的に継続していく講座もあります。
外部の専門家による講座もあるなど、専門的知識も身につけることが可能です。主な講座は以下のとおりです。
- 里山の自然
- おもしろ実験教室
- 海辺の生物
- 写真芸術入門
- エコキュート・MACCの秘密
- ジョブシャドウィング
- 宇宙エレベーター開発に挑戦しよう
このような講座を通して、チームワークや問題解決力などを養っていきます。
高校
高校の現場でもプロジェクト型学習が実施されています。通信制高校で有名なN高等学校は、2019年4月よりプロジェクト型学習の「N高マイプロジェクト」を全国で実施します。
身近にある課題や地域の問題解決に取り組むプロジェクトであり、半年上の長期に渡って活動を行います。また、プロジェクトの発表やフィードバックなどを行う、全国高校生マイプロジェクトアワードも実施するなど、生徒に良い刺激を与える機会が用意されています。
また、神戸にある須磨学園中学校では、
- LCT教育
- ICT教育
- TBM教育
- 国際理解教育
- キャリア教育
- BNIT教育
- 環境教育
- 平和教育
などを方針としたSUMA STANDARD PROGRAMを行っています。LCT教育ではリーダーシップやチームワーク、ICT教育ではインターネットの活用、TBM教育では自らのマネジメント能力を養います。
サマーキャンプやウィンターキャンプでは自然に触れながらリーダーシップやチームワークについて学び、海外研修では異文化交流や企業訪問等を通して、コミュニケーション力やプレゼンテーション力を高めます。継続してプロジェクト型学習をしていくことで、論理的思考や行動力が身につき、なりたい自分を実現する力を養うことが可能です。
大学
社会で求められる力を身につけられることから、プロジェクト型学習を導入している大学も少なくありません。
例えば北海道にある小樽商科大学では、企業や自治体と連携して実践体験型のプロジェクト型学習を行っています。最長6ヶ月程度のプロジェクトを通して、企業や地域が抱える課題解決法を考え、実行することで社会人の基礎力を向上させます。
また新潟大学では、市民や小学生向けの体験学習講座を企画、運営することを通して、プロジェクト型学習を行います。講座の企画をまとめてプレゼンテーションをし、実際に講座を実施したら効果ややり方の検証をして改善します。
大学は卒業後に大半の人が就職するため、プロジェクト型学習を通して社会で求められる能力を磨き、様々な経験を積めることは大きなメリットです。
まとめ
今回はプロジェクト型学習の特徴や事例、メリット・デメリットなどをわかりやすく紹介いたしました。
プロジェクト型学習によって様々な力を身につけ、社会人基礎力を養うことができます。通常の授業ではできない、いろんな経験を積める教育法です。
興味がある保護者の方は、ぜひ検討してみてください。もし、何かわからないことがありましたら、お気軽にご相談ください。
✔️プロジェクトの目標達成を目指す学習方法。
✔️メリット:自分で計画して実行する力が身につくこと。
✔️デメリット:評価が難しいこと。