探究学習が注目され、総合的な探究の時間が高校でも科目化されていますが、どのようなテーマを設定すればいいのかわからないという現場の声も少なくないようです。
そこで今回は「探究学習のテーマ設定の仕方や注意点」「探究活動の進め方」などについて紹介しています。
この記事をご覧いただくことで、テーマ設定方法や探究学習の進め方について理解を深めることができますので、参考にしてください。
目次
探究指導の基本的な考え方
まずは探究学習の内容や導入背景、指導の基本的考え方について見ていきましょう。
探究学習とは
探究学習は、2022年から実施予定となる次期学習指導要領(2019年から先行実施)の改訂で注目されている内容です。探究学習は、生徒が自ら問いを立て、課題解決のためのプロセスを考えて、課題発見や問題解決に必要な能力を育むことが目的です。
固有の知識やスキルを学ぶ教科学習と違い、科目にとらわれない総合的・横断的な力を養うことができます。
探究学習が注目されているのは、小学校・中学校の学力調査等において探究活動に取り組んだ生徒ほど正答率が高く、国際的な調査でも高い評価を得たことなどが理由です。
次期学習指導要領において探究と付された科目には、古典探究・地理探究・日本史探究・世界史探究・理数探究・理数探究基礎などがあります。また、これらの科目とは別に総合的な探究の時間も設けられます。
指導の基礎
探究学習では、生徒の主体性と問題意識を育成することが大切です。なぜなら主体性や問題意識がないと自ら問いを立てることができず、課題発見や問題解決ができないためです。
教師は生徒の主体性や問題意識を育むために、学びのファシリテーターの役割を担い、あくまでも中立的な立場として学びをサポートします。その際生徒の気づきを促し、内発的動機を引き出すことが重要です。
そのためにも教師自身も問いや情報収集力、分析力などを高める必要があります。そうすることで、生徒の学習レベルや状況に合った思考方法やツールの使い方など適切なアドバイスができるようになり、生徒の能力を効果的に向上させることが可能です。
探究学習の正しいやり方
探究学習は、習得・活用・探究の学習が提示されており、生徒は与えられた問いを解くのではなく、自ら問いを立てる必要があります。
探究活動は、以下①〜④をスパイラルに繰り返しながら、能力を向上させていく学習方法です。これらのサイクルを繰り返すことで、思考力や課題解決力などを身につけていきます(参考:今、求められる力を高めるための学習指導)。
- 【課題の設定】 体験活動などを通して、課題を設定し課題意識をもつ
- 【情報の収集】 必要な情報を取り出したり収集したりする
- 【整理・分析】 収集した情報を、整理したり分析したりして思考する
- 【まとめ・表現】気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し表現する
ここでは、それぞれの活動方法の内容やポイント、注意点や事例について確認していきましょう。
課題(テーマ)設定
探究学習のプロセスにおいて最も重要なのが、1つ目のプロセスであるテーマ設定です。実際、大手教育会社ベネッセの調査では、約4割の学校がテーマ設定に課題を感じていると答えています。(参考:ベネッセ「VIEW2,August2018」)
なぜなら教師が一方的にテーマを与えてしまうと生徒が主体的に活動に取り組まないケースがあるためです。
どのようにテーマを設定するかで探究学習から得られる効果も変わってきます。テーマ設定をする際の大事なポイントは以下の5つです(参考:総合的な学習の時間について)。
- 「生徒の疑問や問題意識を引き出せるか」
生徒が自ら考え行動できるテーマを設定するためにも、生徒の疑問や問題意識を引き出せるテーマであるかは重要なポイントです。「なぜ●●なんだろう」と疑問や問題意識を引き出せれば、取り組むテーマを自ら見出すことができます。疑問や問題意識を引き出すための1つの有効な方法が、実生活や実社会で起きていることを取り上げて、生徒へ問いかけることです。「生活や社会では●●となっているが、本来はどうあるべきか」など、生徒へ問いかけることで、疑問や問題意識を触発できる可能性があります。 - 「なんとなく興味を持っていることを明確化・具体化する」
テーマを設定する際は、生徒がなんとなく抱いている興味・関心に結びつくものであると効果的です。まったく興味・関心を持っていないことをテーマにすると「●●になんて興味ないから面倒」「全然興味ないけどやらないと怒られるから。。。」など、自発的行動ではなく、やらされ感満載の行動になってしまいます。自分が興味・関心を持っているものとそうでないものとでは、モチベーションや取り組む姿勢が違ってくるものです。生徒がモチベーション高く積極的に取り組めるように、なんとなくでも興味・関心を持っていることを明確化・具体化してテーマを決めることが大切です。生徒の興味・関心を引き出すために、ワークシートを使ったり、生徒同士で話し合って考えさせるのも効果的です。 - 「生徒の原点を見出すことが大事」
探究学習のテーマ設定は、生徒の原点を見出すことからスタートします。生徒自身が不安や疑問、興味を持っていることが出発点となるため、振り返りシートなどを活用して自己の振り返りをさせます。生徒のこれまでの経験や価値観を棚卸ししていき、「なぜ●●なのか」「●●の何がおもしろいのか」「どのようになりたいのか」など、自分自身に問いかけをさせていきます。生徒の原点を見出すことは、教師の役目でもあります。 - 「時間をかけて慎重にテーマ決めをする」
テーマを決める際は、十分に時間をかけることが大事です。テーマ設定の時間が短いと、「とりあえず」でテーマ設定をする生徒ばかりになってしまいます。熟考したうえで考えたテーマではないため、その後の探究活動にも影響が出てしまい、期待する効果が得られずに授業が進んでしまいます。探究学習の4つの活動サイクルは、1つ目のテーマ設定が非常に重要ですので生徒を焦らせないように、十分な時間を確保しましょう。 - 「地域や環境など取り組みやすいテーマもあり」
生徒の興味・関心あるものが出てこない場合は、地域や環境など身近で取り組みやすいテーマを検討してもいいでしょう。「住んでいる地域はなぜ●●なのか」「地球温暖化とは」など、日頃から密接に関係している地域や環境のことであれば、潜在的に興味・関心を抱いている可能性は十分にあります。興味がないのに強引に地域や環境をテーマにすることはいけませんが、興味がある場合は最適なテーマになり得る可能性があります。
このようなポイントを意識してテーマ設定をすることが重要です。
注意点
一方でテーマ設定の際には、次のような注意点もあります。
- 「やらされ感のあるテーマにしない」
前述のとおり、テーマ設定は探究活動において非常に重要なステップです。生徒自身が興味を持ち、「このテーマについて探究したい」と考えるものでないと、自主性が養われません。探究活動は、生徒自身がやらされ感を感じることなく、自発的に取り組むことが大前提です。やらされ感を感じさせないように、生徒の興味・関心を引き出して棚卸しを行い、モチベーションを高く臨めるテーマが決まるように教師が上手くサポートすることが大事です。 - 「テーマを設定する際は絞ること」
テーマ設定の注意点の1つが、テーマを絞らず広げすぎないことです。最初に興味・関心のあることを棚卸しするためにテーマを広げることは悪いことではないのですが、最終決定するテーマが指すものが広すぎると、抽象的になってしまいます。最終的に決めるテーマは抽象的にならないよう絞るようにしてください。
このような注意点を考慮したうえでテーマ設定を行うようにしましょう。
課題(テーマ)設定の事例
ここでは、テーマ設定の事例について見ていきましょう。
- 「”動物”というテーマだと幅が広く抽象的すぎる」
注意点で紹介したように、テーマを決める際は広げすぎないことが大切です。テーマが広すぎると抽象的になり、探究していくことが難しくなります。生徒の興味・関心があることが「動物」だからといって、そのまま動物を最終的なテーマにしたところ、生徒が何を調べていいのか迷って探究が浅くなってしまったということもあります。具体的には動物という広いテーマではなく、動物の分類や歴史、メカニズムなど、よりテーマを絞ることで深く考え自分なりの解を出しやすくなります。このように生徒のテーマが広すぎる場合は、教師が問いかけるなどしてテーマを絞っていくことが大切です。 - 「恵まれている地域の環境からテーマを発見」
岐阜県にある西濃桃季高校は、探究学習への取り組み・テーマ設定について「地域環境からテーマ設定に恵まれていて不自由しない」と述べています。生徒にとって身近なものをテーマに取り上げることができるためです。「奥の細道結びの地記念館」「関ヶ原の古戦場」「伊吹山の薬草」「赤坂地区の地層や岩石」「揖斐川など河川と水害の関係」などのような地の利を生かしたテーマ設定をするのも1つの方法です。また同校では地域の環境テーマだけでなく、DVD教材やNHK高校講座などの視聴覚教材からテーマ探しをすることも考えているそうです。
情報収集
探究学習では、テーマの設定が完了したら課題に関する情報収集を行います。課題に対してどうやって解決するかプロセスを決め、どんな情報が必要かを考え、情報を集めていきます。
情報収集にはさまざまな方法があり、幅広い情報を集めることでいろいろな発見ができ、収集力も養うことができます。情報収集の活動では、生徒が自発的に情報収集することが求められ、情報の取捨選択や収集方法について学んでいきます。以下は情報収集をする際の主なポイントです。
- 「どんな情報が必要か事前に見当をつける」
生徒に情報収集させる際は、あらかじめ課題分析をするうえでどんな情報が必要なのか見当をつけて始めることが大事です。そのために、どんな課題があるのか、どうやって解決していくのか明確にしておく必要があります。そのうえで、どのような情報が必要なのか仮説を立てさせましょう。そうすることで後に効果的な振り返り・検証ができるようになりますし、情報収集の方向性がブレずに済みます。 - 「関連情報にも目を向かせ収集力を鍛える」
情報収集をする際は、関連情報にも目を向かせることが大事です。関連情報も知ることで、視野を広げるきっかけにもなりますし、多くの情報から必要なものを取捨選択する情報収集力が鍛えられます。情報収集力は探究学習だけでなく、日常生活や社会に出ても重要なスキルです。このスキルを身につけることで関係のない情報に惑わされず、精度の高い情報を得られるようになります。
情報収集の注意点
情報収集する際の注意点は以下のとおりです。
- 「情報収集をさせる目的・意味を認識させること」
情報収集の活動をする前に、活動の目的や意味を再認識させることが大切です。なぜなら目的や意味が生徒に浸透していないと、テーマ設定同様、やらされ感が出てしまうためです。情報収集活動前に、「多くの情報から取捨選択できるようになる」「関連情報にも目を向けて視野を広げる」「情報収集力を向上させ日々の生活にも役立てる」など、活動の目的や意味を共有しましょう。 - 「収集方法は1つにしない」
1つの方法ではなく、複数の方法で情報を集めるようにしましょう。「インターネットで調べる」「図書館で調べる」「周りの大人に聞く」「現場へ取材に行く」など、いろいろな情報収集方法があり、それぞれで得られる情報内容や量、精度などが異なります。収集方法が1つだけだと情報が偏る可能性がありますし、各収集手段のメリット・デメリットなどを体感することができません。情報収集力を向上させるためにも、複数の情報収集方法を実施することが大切です。
情報収集の事例
情報収集の事例について見ていきましょう。
- 「選択肢カードを使って収集手段を決める」
情報収集力を身につけさせるため、学校によっては選択肢カードなどを用いて多くの収集手段に触れさせています。「ネット」「本」「周りの大人に聞く」「現場への取材」など、複数の収集手段のカードを用意し、引いた方法で情報収集するやり方です。この方法であれば、普段触れない手段で情報収集をすることができます。 - 「現場の関係者に話を聞く」
学校によっては、生徒が現場に行き関係者へ取材を勧めているところもあります。関係者から話を聞くことで、ネットや本ではわからない情報に触れることができるためです。またコミュニケーション力や社会性を養うこともできます。デジタル中心の社会だからこそ、アナログ的な情報収集手段を大事にしているのです。
整理・分析
整理・分析の活動では、課題を解決するために収集した情報を整理し、多様な視点から分析します。この活動を通して、適切に情報を整理・分析する力を養います。活動のポイントは次のとおりです。
- 「収集した多くの情報を多様な視点から分析」
これまで収集した多くの情報を課題解決に向けて整理して、構造化・可視化して様々な視点で分析を行うことが大事です。教師が思考方法やツールなども提示し、1つの角度からではなく多角的に分析させることで、生徒は新しい発見と出会うことができます。 - 「具体的な方法を提示する」
整理・分析の際は、具体的な方法を提示することが大切です。なぜなら、多くの生徒が本格的に情報の整理・分析をしたことがないためです。例えば「●●と▲▲を比較して考えよう」「なぜ●●になるのか順序立てて考えよう」「シンキングツールを活用しよう」などアドバイスをすることで、生徒も情報整理・分析がしやすくなります。
整理・分析の注意点
整理・分析の際は以下の注意点もあります。
- 「生徒に何らかの視点を与えないといけない」
整理・分析の活動は収集した多くの情報を活かし、課題を解決するために重要なものです。しかし多くの生徒は効果的な整理・分析方法を知りません。そのため何の視点も与えないままでは、満足な整理・分析はできませんし、新しい学びがないまま終わる可能性があります。
整理・分析の事例
整理・分析の活動内容に関する事例を見ていきましょう。
- 「思考方法を提示する」
学校によっては、5W1Hと「現在」「過去」「意図」「可能性」などの項目を掛け合わせた質問・疑問マトリクスや教科横断的な思考スキルなどを生徒に提示して、整理・分析させることもあります。思考スキルでは、「順序立てる」「つなげる」「関連づける」「比較する」「具体化する」など、いくつもの思考方法があり、状況や内容に合わせて使い分けています。 - 「ツールを活用する」
ペン図や座標軸やクラゲチャートなどのシンキングツールを活用することで、生徒に整理・分析のやり方を教えるケースもあります。ツールの使い方・考え方を教えれば、探究学習以外の分野でも活用することが可能です。
まとめ・表現
4つ目の活動ステップである、まとめ・表現では、分析したまとめたものを資料にして発表します。そして、これまでの活動内容を振り返り、プロセスの良かった点や改善が必要なことについて検証をするなど、次回の活動に向けても重要な内容です。まとめ・表現を行う際の主なポイントは以下のとおりです。
- 「結論や主張、伝え方を考える」
まとめ・表現では、事前にテーマの課題に対する結論や主張、伝え方について考えさせることが大事です。「結論は何か」「自分はどんな主張をしたいのか」「どのようにすればわかりやすく正確に伝わるか」など、あらかじめ生徒自身が考えて構成することで、その後の反省や検証も効果的なものになります。しかし生徒の成長を促すために、あくまでも生徒自身に考えさせることが重要です。 - 「実際に他人に伝えたり、議論をする」
これまで調べてきた内容をまとめ、主張や伝え方の準備もできたら、実際に他人へ向けて発表させましょう。結論や主張、伝え方を考えさせてもアウトプットする場がなければ、考えた方が適切なのか、どこを修正すればいいのかわかりません。発表や議論などアウトプットをさせることで、多くを学ぶことができます。
まとめ・表現の注意点
まとめ・表現を行う際の注意点についても見ていきましょう。
- 「他人の発表でもしっかりと学ばせること」
ただ発表させるだけでは満足のいく効果を得ることができません。問題意識を持って発表させたり、他人の発表もしっかりと聞くなどすることで、自分では気づけなかったことに気づくことができます。自分の発表のときしか集中していない生徒もいますので、しっかりと他人の発表からも学ばせるようにしましょう。
まとめ・表現の事例
どのようなことに気をつけているのか、事例について見ていきましょう。
- 「達成できたことなどを振り返る」
多くの場合、実施されていることですが、発表後に活動を通して「達成できたこと」「解決できなかったこと」「上手くいかなかったこと」など、振り返りの時間を設けることが大切です。振り返り、「次は●●しよう」など行動の修正計画を立て、次回実行して再び検証・修正することを繰り返すことで、能力が向上していきます。 - 「生徒だけでなく教員も一緒に考える」
探究学習は生徒が自主的に動くことが理想ですが、最初から全員が自発的に動けるものではありません。知識レベルに個人差もあるので、教師が生徒を上手くサポートすることが必要です。そのため生徒がまとめ方や発表の仕方で困っている場合は、教師が一緒になって考えるところが多いようです。当然のことではありますが、生徒任せになっている学校もあるようなので、専門知識を有した教師が適切なサポートをすることは、生徒の能力やモチベーション向上のためにも重要です。
まとめ
今回は、探究学習のテーマ設定の仕方や注意点、探究活動の進め方などについて紹介いたしました。
探究学習のテーマ設定や進め方に疑問を持っていた教員の方のお役に立てれば幸いです。
✔探究学習とは、自課題発見や問題解決に必要な能力を育む学習法。
✔テーマ設定は5つのポイントを押さえておく必要がある。
✔指導者によって子どもが得られる学習効果がまったく違う。