単なるインプット学習とは異なる「イエナプラン教育」が注目されています。ドイツ発祥の教育方法で、日本で行われる学習方法と大きく異なった特徴があり、独自の学習効果が期待できます。
イエナプランとはいったいどのような学習方法なのでしょうか。本記事では、イエナプラン教育の概要をはじめ、どのようなメリット・デメリットがあるのか解説していきます。
目次
イエナプラン教育とは?
イエナプラン教育は、従来知られている学習方法にはない特徴を持った教育方法です。どのような教育方法であるのかをお伝えするとともに、その重要性についてわかる事例を紹介します。
他者と共に生きることを学べる
イエナプランは1924年にドイツにあるイエナ大学のペーター・ペーターゼンが取り入れた教育方法です。基本的に行われる活動は会話、遊び、仕事、催しの4つとなっています。
学校では読み書きや計算を学ぶのが基本です。その反面、イエナプランでは子供たちをグループで活動させることで、お互いが異なる存在であることを知り、共に生きることの大切さを学べるように促します。
近年では、受験を意識するあまり、勉強さえできればよい、テストの点数が高ければよいなどという考え方も見受けられるのが実情です。
しかし、教育の目的は、子供たちがよりよい人生を歩めるようにすることだといっても過言ではありません。そのため、他者と共に生きることの大切さを学べるイエナプラン教育は、本来の教育目的に沿った教育方法だといえるでしょう。
発祥地以外のオランダでも広がる
イエナプランはドイツで発祥したにもかかわらず、興味深いことにオランダで発展を遂げたことが知られています。現在、オランダで行われるオルタナティブ教育の約3割がこのイエナプランを導入しているとのことです。
オランダは憲法で教育の自由が保障されていて、他国の教育方法を取り入れることが認められています。それもあり、戦後に新しい時代の教育方法としてイエナプランが取り入れられたのをきっかけに、その教育方法が広まっていったのです。
日本では日本の教育方法が定着しているように、各国にも独自の教育方法が根付いています。にもかかわらず、母国以外の教育方法が率先して取り入れられることは、あまり見られない事例といるでしょう。オランダで広まったという事実からは、イエナプラン教育が果たす役割の大きさがうかがえます。
イエナプラン教育の概要について詳しく知りたい方は、以下の記事を確認してみてください。
イエナプラン教育のメリット
イエナプラン教育の概要をお伝えしました。他者との関わりの中で学習を深める教育であるとお分かりいただけたことでしょう。ここからは、その教育方法を深掘りし、どのようなメリットがあるのかをご紹介していきます。
人に教える力が身につく
イエナプラン教育の変わった特徴の一つが、学級が異年齢の子供で構成されることです。そのため、自分より年下の子供と学びを共にします。
年上の子供は年下の生徒よりも知識や経験も豊富です。当然年下の子供に勉強を教えてあげる機会も出てくることでしょう。
一般的な授業では同級生は同じ立場であるため、一部の優秀は子供を除いて教えるという立場を経験するのは難しいことです。イエナプランでは必然的に教える立場を経験するので、学んだことをアウトプットしやすく、学習したことも定着しやすいと考えられます。
他者の視点を共有できる
イエナプラン教育では円になって対話をする活動も含まれています。特定のテーマについて話しあったり、自由作文を発表したりするなど形式はさまざまです。
いずれのパターンでも他者と意見を共有するスタイルは共通しているので、他者がどのようなことを考えているのか、どんな意見を持っているのかなどを知ることができます。
一般的に勉強は各自が読み書きしながら進めていくものですが、自分の勉強方法が適切であるかを判断するのはなかなか難しいことです。
その点で、イエナプラン教育は、常に他者の視点を共有できる環境で学習できるため、自分の学習方法について分析しやすくなり、適切な学習スタイルを身に着けるのに役立つといえるでしょう。
探究心を深く養える
イエナプラン教育では、他者との関わり合いの中で学習を進めていく傍ら、一人ひとりに黙考させる機会を与えることも重要視しています。なぜなら、答えのない問題を諦めずに探究する力も必要だと考えられているからです。
知識を得ることや答えを知ることは、他者の協力があれば容易いといえます。しかし、実社会では、常に他者が助けてくれるとは限らず、自ら問題に対処しなければならないこともあるでしょう。
その点、静かな学びの場を提供するイエナプラン教育は、自ら考える力を身に着けるとともに、探究心を深く養うのにも適しています。
校外活動で効率的な学習ができる
イエナプラン教育では、子供が自発的に学習できるように、学習環境も重視されています。絵や写真が豊富な教材を用意するだけでなく、校外活動を促すことで実物に触れる機会を多く取り入れるようにしている点が特徴的です。
勉強では、絵や写真などを見ると理解がはかどる傾向がありますが、あくまで一面的なイメージでしか情報を取得できません。
実物に触れることによる学習は、多面的な理解を促してくれるため、絵や写真などより効率的に知識を吸収できるといえるでしょう。
このように、イエナプラン教育は、単なる知識伝達を主とする座学とは異なります。テキストを読むだけの授業よりも効率的な学習が期待できるのです。
学習の意義を学べる
イエナプラン教育では、国数英理社などと科目を定めることをせずに、ワールドオリエンテーションという総合学習を行う点も特徴的です。
この総合学習で取り扱うテーマは、主に「経験領域」というジャンルの中で、7つに分類されます。具体的に挙げると、「作ることと使うこと」、「環境と地形」、「巡る一年」、「技術」、「コミュニケーション」、「共に生きる」、「私の人生」に集約されます。
これらのテーマを通して、労働の意義や、他者や自然との関わり、正しい科学技術の使い方などを学ぶことが可能です。
いずれのテーマも、単に読み書きや計算を学ぶことを目的としているわけではありません。なぜ勉強が必要なのかを実感させてくれるテーマばかりだといえます。
勉強の意義がわかればおのずと子供の学習意欲も高まるものです。イエナプラン教育は、学習の意義を子供に実感させるうえで、おすすめの教育手法といえるでしょう。
子供の学習状況を把握しやすい
子供がしっかりと学習しているのかはどのような保護者であれ気になるに違いありません。イエナプラン教育では、子供の教育は学校と保護者が連携して行うべきものだとしています。
それもあり、子供の学習状況を把握しやすいように、保護者も教育活動に参加できる機会を設けているのです。個別授業の補助や、遠足の援助など、幅広い活動に参加できます。
学校や塾の授業でも子供の学習している様子を確認できる参観日はありますが、保護者が子供と一緒に活動できる点はイエナプラン教育ならではといえるでしょう。授業を後ろで見ているよりも子供の学習状況を正確に把握できるといえます。
イエナプラン教育のデメリット
ここまでイエナプラン教育のメリットについてお伝えしてきました。イエナプラン教育は、実社会で生きるのに不可欠な素養を身に着けられる教育手法であることがわかりました。
しかし、完璧な教育手法というものは存在せず、イエナプラン教育にも少なからずデメリットがあります。目新しいからとやみくもに導入するのはおすすめできません。ここからはイエナプラン教育のデメリットについてもご説明します。
性格によって学習効果が低下する
人の性格は千差万別であり、人と関わるのが極端に苦手な子供もいます。そのような子供は、グループで活動する際に委縮してしまい、発言できなかったり、質問できなかったりする可能性が高いといえるでしょう。
イエナプラン教育がいかに社会性を身につけるのに適した教育手法だとしても、子供に過度なストレスを与えてまで実践する必要はないといえます。
グループ活動で嫌な思いをして余計に人と関わるのが怖くなってしまう子供もいるかもしれません。子供の性格を考えたうえで導入すべきことはいうまでもないでしょう。
勉強以外の活動も含まれている
イエナプラン教育では、「対話」、「遊び」、「仕事(学習)」、「催し(行事や祝い)」を活動のメインとしています。つまり、勉強以外の活動も含まれているのです。したがって、遊びやイベントなどにも参加しなくてはなりません。
これらの活動は教育上子供の成長には欠かせないものです。しかし、これらの活動に参加をしたとしても、テストの得点が上がったり、学校の成績が上がったりすることは考えづらいといえます。
それを踏まえると、勉強の意義よりもテストの得点や成績を重視する子供が、無駄な時間が多いと感じて不満を抱くこともあるかもしれません。
国数英理社の学習に対応していない
イエナプラン教育は、実社会向けのテーマを中心に学習することから、勉強の意義を学ぶのには適しています。しかし、受験は、国語、算数(数学)、英語、理科、社会の5教科に対応しています。
その点、イエナプラン教育科目はこの5科目に対応していません。科目に捕らわれない学習にメリットがあるといえども、5科目のジャンルで勉強しない限りは試験で合格点を取ることは厳しいでしょう。
したがって、受験で成果を上げることを最優先とするケースでは、イエナプラン教育をおすすめできません。
ただし教育改革に見られるようにこれからの教育は、知識偏重型から代ろうとしています。思考力がより求められるようになってからの時代には、探究心を養えるイエナプラン教育はテストにも効果を発揮するようになるかもしれません。
日本での学習効果が不明確である
イエナプラン教育は世界的に注目されている教育方法であることをお伝えしましたが、日本ではまだ深く浸透していない実情があります。というのも、2019年4月に「大日向小学校」でイエナプラン教育が初めて導入されたばかりだからです。
ドイツやオランダを中心にメリットのある教育方法として導入されていますが、日本人の教育に適しているかどうかは実際のところ明確な答えが出ていません。
そのため、必ずしも取り入れた方がよいと言い切れず、学習効果が不明確であることはデメリットの一つとして挙げられます。
2022年度には広島県福山市の市立常石小学校が、全国の公立小学校で初めてイエナプラン教育を取り入れる予定です。イエナプラン教育の効果を検証するうえで、これらの学校の動向に注目が集まっています。
まとめ
以上、イエナプラン教育の概要とともに、メリットやデメリットを解説しました。通常の学習では得られないメリットが豊富であり、取り入れてみたいと思った人もいるのではないでしょうか。
日本ではイエナプラン教育の導入がすでに始まっています。イエナプラン教育のデメリットが気になった人は、今後の動向に注目してみるとよいでしょう。
イエナプラン教育についてさらに興味を持った人は、ぜひ塾コンシェルに相談してみてください。イエナプラン教育を活かした指導を行っている塾をご紹介させていただきます。
参照:
日本イエナプラン教育協会『イエナプラン教育とは』
玉川大学『イエナ・プランの教師教育をめぐって―その後の動向―』
✔イエナプラン教育とは「会話」「遊び」「仕事」「催し」の4つをグループで行う教育法。
✔メリットは、グループを通じて他者との生き方を学び、自らの探究心も育めること。
✔デメリットは、国数英といった受験科目に対応していないこと。