オルタナティブ教育が注目される昨今、イエナプラン教育が注目を集めています。そこでは本記事では、「イエナプラン教育ってどんな教育方法なの?」という疑問を解決していきます。
また特徴とあわせてメリットや問題点、小学校についても解説しているので、イエナプラン教育について広く知りたいと考える方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
イエナプラン教育とは
日本イエナプラン教育協会によると、イエナプラン教育とは「一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデルの教育」です。個性の尊重や対話を重視した指導が行われています。
つまりイエナプラン教育が目指すものは、自律のための「主体性」と、共生に必要な「協調性」の獲得だと言えるでしょう。
またイエナプラン教育は、「世界一の教育」と表現されることもあります。イエナプラン教育の普及するオランダは、過去に子どもの幸福度ランキングで、先進31ヵ国中1位を獲得しました。それと関連付けられ、世界一の教育と表現されているのだと考えられます。
イエナプラン教育の特徴
イエナプラン教育では、一体どのように「主体性」「協調性」が育まれるのでしょうか。指導方法や仕組み、環境の特徴を踏まえ、それぞれ解説していきます。
主体性
主体性を伸ばすために、以下のような取組みや仕組みがあります。
- ブロックアワー
- ワールドオリエンテーション
- 「導く」立場としての教員
- 生徒個人ベースの評価
それぞれ詳しく確認してみましょう。
ブロックアワー
イエナプラン教育での勉強は、ブロックアワーと呼ばれる個別学習の時間が多くを占めます。ブロックアワーでは、生徒が自分で1週間の学習計画を立てて、それに沿って学習を進めて行きます。
個別に計画を立てるため、生徒によって勉強する科目やタイミングは様々です。後述するマルチエイジグループの中で、各自が自分のペースで勉強を進めていきます。そのため、数十人もの生徒が一斉に指導を受ける般的な日本の授業とは大きく異なります。
もちろん自主学習だけでは、わからない問題に直面することもあるでしょう。その際には問題を解決するために、同じグループの年長者へ質問できるようになっています。
ワールドオリエンテーション
教科の区別をつけない総合学習「ワールドオリエンテーション」が実施されます。ある特定のテーマについて、生徒たちが自分で調べ、学び、発表していきます。先述したブロックアワーの際にも、テーマについての課題を進めていくなど、学習全体に関わっているため、「イエナプランのハート」と言われるほど重要な役割を持ちます。
そしてこの学習で目的としているのは、知識を身につけることではありません。物事をどのように捉え、どんな問いを立て、その問いにどのように答えていくかを大切にしています。このような「学ぶための学び」により、自ら学び続ける姿勢を養っているのが特徴です。
「導く」立場としての教員
日本での教員の役割は、「教える」が一般的でしょう。一方イエナプラン教育において、教員は「導く」役割を持ちます。イエナプラン教育では教員を「グループリーダー」として表現している点からも、この指導スタイルの違いが強調されていると言えるでしょう。
「導く」と言っても、具体的に何をしているのか想像するのは難しいですよね。グループリーダーとしての教員が担うのは、生徒の自発的な学びと行動を促すことです。生徒への問題の提示や議論の進行管理を行います。
例えば、生徒が学習計画通りに学習を進められなければ、教員は問題を提示します。「どうして計画通りに進まなかったのだろう?」「どうすれば計画通りに進められるだろう?」といった問いを立てることで、直面した問題を生徒が自力で乗り越えられるようにサポートしています。
生徒個人ベースの評価
イエナプラン教育での評価は、日本で一般的なテストの点数を重視した方法は取っていません。また数値や「よくできました」などを用いた段別別の評価も行っていません。イエナプラン教育では、成果物や生徒が自分でつける学習日記などのポートフォリオ基に、グループリーダー(教員)が文章で生徒を評価します。
生徒個人のみを見て評価する点が、他生徒との比較で評価を行う日本教育との相違点です。
協調性
協調性を育むために、以下のような取組み・仕組みがあります。
- マルチエイジグループ
- 4つの活動内容
- リビングルームとしての教室
- 違いを受容する
異年齢のグループ(マルチエイジグループ)
3学年の子どもが一緒になる異年齢グループを作って学習するのが、イエナプラン教育の特徴です。日本のように同年齢でのクラス編成を行っていません。
オランダでは4歳から小学校へ入学するため、4歳〜6歳・6歳〜9歳・9歳〜12歳のグループが形成されます。これにより生徒は、グループの中で年少・年中・年長それぞれの立場を自然に経験できます。
4つの活動内容
イエナプラン教育の学校では、以下4つの活動をベースとした生活を送ることになります。日本のように教科をベースとした時間割は組まれていません。4つの活動に共通するのは、どれも他者との対話や協力が必要な点です。各活動を通して、他者と共生する力を育めることは間違いないでしょう。
- 対話
「サークル対話」と呼ばれる活動が行われます。教員と生徒が円になって、それぞれの顔を見ながら他者の意見を聞き、自分の考えを発信していきます。 - 遊び
遊びの時間は踊りや演劇、スポーツなど様々なアプローチが取られます。 - 仕事
仕事とは「学習」を指します。日本の学校で行われる授業と最も近い活動です。自立学習と協働学習の2通りの方法で行われます。 - イベント
イベントの時間は、学校行事や誕生日などのお祝い事、週1回開催されるミニ学芸会、新入生歓迎会、夏祭りなど、様々な催しのことです。仲間とは楽しいことだけでなく、悲しいことも共有し、共生していることを体験します。
リビングルームとしての教室
教室を家庭のリビングルームのように捉えるのも、イエナプラン教育の特徴です。このリビングルームとは、「誰もが安心でき、自分らしくいることができる空間」(井上 2018)を指しています。この考えに基づき、新学年が始まる時には子どもたちと教員が話し合い、机や椅子の位置など自分たちで教室の内装を決定します。
家族が談話をするリビングルームを演出することで、生徒同士がお互いを家族のように尊重し合える雰囲気を作り出しているのでしょう。
違いを受容するインクルージョン
一人ひとりを尊重するイエナプラ教育では、文字通り「誰しも」が尊重されます。イエナプランの学校は日本の学校のように、特別学級を設置していません。健常な生徒でも障がいを持つ生徒でも、同じグループで生活することになります。
年齢に加え障がいでの区別をしていないため、生徒は多様な個性に触れられるのです。
イエナプラン教育は自律(主体性)と共生(協調性)を育む
以上のようにイエナプラン教育では、自律と共生ができる子どもを育てています。
ブロックアワーやワールドオリエンテーションにより、生徒は自分で考え、行動していかなければなりません。またマルチエイジグループやリビングルームに代表されるように、学校生活を送るうえで他者との関係は欠かせません。
このような自律と共生を促す仕組み・取組みがなされているのが、イエナプラン教育の特徴と言えるでしょう。
イエナプラン教育 20の原則
イエナプラン教育には、「人間」「社会」「学校」の3つのジャンルについて記された教育コンセプト「20の原則」があります。例えるならばスローガンのようなものであり、イエナプラン教育が「どのような教育であるべきなのか」を示しています。この20の原則にも「自律」と「共生」への思いが見て取れます。
以下でスタスタが要約した20の原則を確認してみてください。
- 世界にたった一人の大切な存在なので異なる価値観を持つことは当然
- その人の環境や背景に関係なく、自分らしく成長していける
- 本物の社会や文化に触れ、他者との関係を持つことで自分らしく成長できる
- みんなが受け入れられ、適切な対応をされる
- みんなが文化の担い手・革新者として受け入れられ適切に対応される
- すべての人が持つそれぞれの価値観を尊重できる社会の実現に取り組まなければならない
- みんなの個性を伸ばす・成長できる社会をつくっていかなければならない
- 違いや変化を受け入れられる社会づくりを実現しなければならない
- すべての人が世界を大事にし、注意深く守っていく社会をつくっていかなければならない
- 自然や文化の恵みを未来に残すために責任を持つ社会の実現に取り組まなければならない
- 学校とは、社会からの影響を受けると同時に社会に対して影響を与える独立組織
- 学校で働く人は20の原則を基本に仕事に取り組む
- 学校の教育内容は子どもたちの暮らしや経験、人々と社会の発展にも大切なもの
- 教育学的によく考えられた教具、環境を用意したうえで教育活動をおこなう
- 対話・遊び・仕事・イベントの4つの基本的な活動を大事にする
- 年齢や発達程度の違いがある子どもたちを一緒にすることでお互いの違いを学べる
- 1人の自習学習とグループリーダーが指示・指導する学習をおこなう
- 経験・発見・探究するために教科横断的な総合学習が中心となる
- 行動や成績について評価する際は、子どもの成長という観点から本人と話し合う
- 何かを変えたり、より良いものにするために常日頃から考え行動・検証をする
20の原則を見れば、イエナプラン教育が何を大切にしているか知ることができます。「日本イエナプラン教育協会」ホームページに20の原則の原文翻訳が載っていますので、詳細を知りたい方はぜひ以下の記事で確認してみてください。
イエナプラン教育のメリット・効果
イエナプラン教育を受けることで、主体性や協調性の他にも、「リーダーシップ」や「自己肯定感」が育まれます。
主体性が身につく
イエナプラン教育では、ブロックアワーやグループリーダーに表れているように、生徒の自立と自律が重要視されています。常に自分で考え・行動することが求められるため、自然と主体性が育まれていくでしょう。
協調性が育まれる
イエナプラン教育では、異なる個性を持った人々と積極的に関わる仕組みが整えられています。マルチエイジグループや障がいを排した学校作り、サークル対話がその代表例として挙げられます。このような環境に身を置くことで、他者理解とそれに伴なった人との付き合い方など社会性が育まれるでしょう。
リーダーシップを取れるようになる
マルチエイジグループが形成されるため、どの生徒も年長としてリーダーの役割を担うことになります。またグループが3年単位で形成されるため、年長を経験した後でも、再び年少・年中を経験し年長になります。そのため年少者・年中者の気持ちを汲んだリーダーシップが取れるように成長するでしょう。
自己肯定感が育まれる
イエナプラン教育を通して、自己肯定感の維持と向上が期待できます。その理由は、マルチエイジグループや評価方法にあります。
マルチエイジグループにより、勉強の「できる子」「できない子」が固定化しません。そしてグループの中で年長者になることで、一般的な学校では「できない子」のレッテルを貼られていたはずの生徒でも、勉強を教える経験ができます。この他者への貢献が、生徒の自己肯定感を高めるでしょう。
また相対的な評価が行われていないため、そもそも他の生徒と自分を比べて劣等感を感じることもありません。
イエナプラン教育のデメリット・問題点
メリットを紹介してきましたが、イエナプラン教育には当然デメリットもあります。メリットと比較しながら、お子様に受けさせるべきなのか検討してみてください。
相対的な評価を受けられない
イエナプラン教育では、他の生徒と比べて優秀なのかどうかといった相対的な評価は実施していません。そのためお子様の立ち位置を確認したいと過度に感じてしまう方には、イエナプラン教育は向かないでしょう。
普通の学校に馴染みづらくなる
2020年現在、日本のイエナプラン学校は小学校までです。そのため中学校からは、一般的な学校に進学することになります。一般的な学校とは大きく異なるイエナプラン教育に慣れてしまうと、普通の学校に入学した際、その学校へ馴染むのに苦労する可能性があります。
イエナプラン教育を受けられる学校
イエナプラン教育を受けられ学校は、長野県にある以下の1校のみです。(2020年現在)
- 「学校法人茂来学園 大日向小学校」
長野県南佐久郡佐久穂町に誕生した日本初のイエナプラン教育の学校は、私立小学校の大日向小学校です。大日向小学校では、日本に合ったイエナプラン教育を提供しており、自然豊かな環境の中で自発性や社会性などを身につけることができます。なかには、大日向小学校へ子どもを通わせるために、長野県への移住を検討しているご家族もいるようです(参考:大日向小学校)。 - 「広島県福山市 イエナプラン教育校」(2022円4月開校予定)
福山市でもイエナプラン教育を受けられる学校を創設する動きがあります。2019年3月に創設の考えが明らかにされ、2019年度から準備を開始、そして2022年4月開校を目指して官民協力のもと進められていく予定です。福山市では、イエナプラン教育内容を検証し、成果を全市へ普及・展開させていく考えも持っているため、さらにイエナプラン教育を受けられる学校が出てくるかもしれません。
イエナプランの学校が近くにない場合は?
学校数が少ないため、「イエナプランの学校に通わせてみたかったけれど、引っ越しまでは考えられない」と感じた方も多いのではないでしょうか。そんな方にオススメしたいのが、オンラインコーチングです。イエナプラン教育を実施しているわけではありませんが、「子どもの主体性を大切にする」「教えることではなく、導くことに重点を置いている」という点で共通点があります。
イエナプラン教育ではなくても、「子どもが自分の力で幸せをつかみ取れるように成長してほしい」と考える方は、ぜひ詳細を確認してみてください。
イエナプラン教育と他のオルタナティブ教育との違い
イエナプラン教育は、特殊な教育法の総称である「オルタナティブ教育」の一つです。以下で、オルタナティブ教育の一つである「シュタイナー教育」との違いを確認してみましょう。
独自科目
2つの教育方法では、どちらも以下のような独自の科目を指導しています。
- イエナプラン教育:「総合」ワールドオリエンテーション
- シュタイナー教育:「芸術」オイリュトミー・フォルメン線描
オイリュトミーやフォルメン線描とは、シュタイナー教育が独自に行っている「芸術」科目です。詳しい内容の説明は割愛しますが、「総合」科目を独自に用意するイエナプラン教育との教育方針の違いが見て取れます。
独自の授業方法
授業方法にも以下のような違いがあります。
- イエナプラン教育:ブロックアワー
- シュタイナー教育:エポック授業
イエナプランでは、生徒が週の予定を立てて自由に勉強するブロックアワーが特徴でした。一方のシュタイナー教育では、エポック授業という独自の授業方法を採用しています。約3週間かけて、同じ科目を朝の約100分で指導する授業方法です。
イエナプランでは自律して学習できる力を養っているのに対し、シュタイナー教育では物事にじっくり取組む力を育んでいる点が相違点と言えるでしょう。
その他のオルタナティブ教育との違いが気になる方は、ぜひ以下の記事をご覧ください。
まとめ
ここまで、イエナプラン教育の特徴やメリット、問題点などについて解説してきました。イエナプラン教育とは、独自の仕組み・取組みを取り入れた運営で、「自律」と「共生」育む教育法です。子どもがそれらの力を身につけ、自分なりの人生を歩んでほしいと考える方は、ぜひ受けて見てください。
参考
- 日本イエナプラン教育協会『イエナプラン教育とは』
- 文部科学省『諸外国の教育の現状に関する参考資料』
- 井上 健『開かれた教育改革モデルとしてのイエナプラン-オランダにおけるイエナプランの受容と展開-』
- 持田 京子『「イエナプラン教育」研修報告』
- 山口大学、熊井 将太『異年齢学級教育の可能性と課題 : イエナ・プランを中心に』
- 仙波 義規『イエナプランから学ぶ日本の教育の在り方〜日本の将来を考えて〜』
- 椎野信雄, 上谷香陽『オランダのイエナプラン教育とオランダ社会のかかわりについて』
- 池ヶ谷 隼世『オランダのイエナ・プランに関する考察-受容過程における変容に注目して-』
- 学校法人 茂来学園 大日向小学校 しなのイエナプランスクール
- 国立社会保障・人口問題研究所『先進国における子どもの幸福度 日本との比較 特別編集版』
- OECD『The Jenaplan School of Jena』
✔イエナプラン教育は、「自律」と「共生」をテーマに掲げる教育法
✔「主体性」「協調性」「リーダーシップ」「自己肯定感」が育まれる。
✔この教育を受けられる学校は日本にたった1つしかない。