✔️レッジョ・エミリア教育では「子供の権利」「社会性」「時間」を尊重する
✔️活動の流れは「プロジェクト活動」→「自由な芸術活動」→「ドキュメンテーション」
✔️実践方法は子どもが興味を持てる活動を探し、その様子を記録に残すなど
皆さんは「レッジョ・エミリア教育」という教育方法をご存知ですか?
レッジョ・エミリア教育は、今、世界の中で最も優れた幼児教育法として注目されているメソッドで、世界を代表するトップ企業「Google」や「Disney」の本社に併設された附属幼稚園にも導入されています。
日本では、まだ認知度の低いレッジョ・エミリア教育。その教育理念や活動の特徴などを分かりやすく解説します。
目次
レッジョ・エミリア教育とは?
まずは、レッジョ・エミリア教育についての概要から見ていきましょう。
レッジョ・エミリア教育は、北イタリア・ロマーニャ州にある人口17万人の小都市「レッジョ・エミリア」で、誕生しました。1960年代頃からレッジョ・エミリア市で盛んになった教育方法で、教育家ローリス・マラグッツィ(1920年~1994年)が掲げた「100のことば」を教育理念に、「子供の無限の可能性」を伸ばしていく独自のメソッドを実践しています。
ローリス・マラグッツィの「100のことば」には、過去の幼児教育は子供に対して冷たく、また子供の権利を奪うものであると書かれており、レッジョ・エミリア教育では、これと反対に「子供の権利」「社会性」そして「時間」を尊重することが重要とされています。
レッジョ・エミリア教育では、子供の自律性や協調性を養うために「プロジェクト活動」「自由な芸術活動」「ドキュメンテーション」というユニークなアプローチを設けており、子供の自主性や興味・関心を伸ばす教育に取り組んでいます。
誕生の経緯は?
続いては、レッジョ・エミリア教育が誕生した背景に迫ってみましょう。
レッジョ・エミリア教育が誕生したのは、北イタリアのロマーニャ州にある「レッジョ・エミリア市」でした。レッジョ・エミリア市は、パルミジャーノ・レッジャーノチーズの発祥の地であり、美しい自然環境と豊かな農産物に恵まれた土地です。第二次世界大戦中は、最後までドイツ・ファシスト軍に反発した歴史を持つ、気骨のある地方都市として知られています。
第二次世界対戦後、レッジョ・エミリア市の街は半壊し、村の人々は戦争で破壊された建物の中から建材を集めて街の再建をスタート。最初は市民の手によって、幼稚園の建設が始まりました。やがて1950年にローマで教育心理学の学位を取得したローリス・マラグッツィは、この市民運動に感銘を受け、地元であるレッジョ・エミリア市に戻って教育活動に専念することとなります。
幼児教育施設の建設から始まったこの運動は、次第に規模が広がっていき、1963年には初の公立幼児教育施設が誕生します。その後、レッジョ・エミリア市には、保育施設だけで18箇所、幼児教育施設に至っては51箇所が開校し、活発な教育活動が展開されていきます。北イタリアの小さな街で生まれたこの教育活動の総称こそ「レッジョ・エミリア教育」なのです。
大切にしている3つの教育理念は?
市民運動とそれを支援した一人の教育家の情熱から生まれた「レッジョ・エミリア教育」。一体どんな教育理念を掲げているのでしょうか?レッジョエミリア教育では、「社会性」、「時間」、「権利」という3つのポイントに重点を置いて子供たちを教育しています。
社会性
レッジョ・エミリア教育では、4~5名のグループに分かれて「プロジェクト」と呼ばれる活動を行います。
「プロジェクト」では、保育士が指示を出すのではなく、子供たちが互いに話し合って意見を出し合いながら、作業を進めていきます。
テーマの決定や、参加人数、「何を作るのか?」「どのように作るのか?」と言ったことを、子供たちが対等の立場で決めていくことで、お互いの意見を尊重することや相違点を認めることなどを身につけます。こうした作業を繰り返すことで、子供たちが自然と社会性を身につけるように工夫されているのです。
時間
レッジョ・エミリア教育では、あらかじめ決められたカリキュラムや時間割が一切なく、子供たちのペースで「プロジェクト」を進めていきます。「急かされる」ことによって、子供たちは、本来持っている創造力や、好奇心を発揮することができなくなります。
レッジョ・エミリア教育では、長期的に1つのテーマを掘り下げていくことで、子供の時間感覚に合わせたゆとりある教育を行うようにしています。
権利
レッジョ・エミリア教育が世界で最も高い教育方法の基準と呼ばれる所以は、「子供の権利」を尊重するという教育理念が徹底されているからです。
例えば何かを試してみる権利、質問をする権利、間違う権利、答えを想像する権利、そして迷う権利や黙っている権利など、子供が本来持っている特性をすべて受け入れる姿勢を打ち立てています。
一人ひとりが思い思いの行動をとってもよい「子どもは権利の主体」というのが、レッジョ・エミリア教育の理念です。
活動の特徴
「社会性」「時間」「権利」の3つの教育理念を実現するために、レッジョ・エミリア教育では、ユニークな活動を行っています。以下で項目ごとに、紹介していきます。
独自の環境
レッジョ・エミリア教育では「独自の教育環境」を整備しています。
教室には壁がなく、アトリエ、お昼寝の部屋、キッチンなど様々なスペースが一つの大きな空間になるよう設計されています。スタッフが子供たちを常に見守る体制ができており、安全な環境でのびのびと過ごせるように工夫されています。
また本やパソコンなどの教具も同じ空間に揃えられており、誰でも遊んだり本を読んだりすることができるので、子供たちは思い思いの時間を過ごせるのです。
どんな流れで進むの?
レッジョ・エミリア教育では、「プロジェクト活動」→「自由な芸術活動」→「ドキュメンテーション」という3つのステップで幼児教育を進めていきます。一つずつ解説してみましょう。
- プロジェクト活動:プロジェクト活動は、子供たちが話し合いながら、一つのテーマに沿って長期的に掘り下げていく活動です。テーマによっては、地域の人や保護者の協力も得ながら、長いときには1ヶ月以上もかけて作業に取り組みます。
- 自由な芸術活動:レッジョ・エミリア教育では、教室の中にあるものだけでなく、園の外にある身近な自然環境なども教材として取り入れます。海辺で貝殻を拾ってきたり、公園の石を集めてみたり、虫をつかまえたりと、どんなものでも、学びの対象となるのです。時折、子供たちにとって少々危険なもの(針金や釘)などを拾ってしまうこともありますが、スタッフがフォローしながら、子供の興味や好奇心を育む活動をサポートします。
- ドキュメンテーション:ドキュメンテーションは、子供の行動をスタッフが寄り添いながら記録する活動のことです。子供がなぜ、そのことに興味を持ったのか?どんなところが楽しいのか?などを質問しながら、ビデオに録画したり、ノートに記録したりするのです。子供の思考や想像したことを、本人、そして保護者にも分かるように、スタッフが分かりやすくまとめます。ドキュメンテーションは、パネルなどに展示されることもあり、子供の成長を誰でも見ることができる仕組みです。
導入による3つのメリット
1991年アメリカの「ニューズウィーク誌」で世界最高の教育方法として紹介された「レッジョ・エミリア教育」。
実践すると、どんなメリットがあるのでしょうか?3つのポイントをまとめます。
- 自主性と協調性を育める:レッジョ・エミリア教育では、プロジェクトに参加して他の子供たちと話し合う場が多く設けられています。この経験を通して子供たちは、自主性と協調性を身につけることができます。
- 交渉力を育むことができる:プロジェクトの提案の際は、自分の企画が取り上げられるように、相手を説得する必要が出てきます。この経験を通して交渉力を身につけられます。
- 興味・関心を育める:一つのテーマに長期的に取り組むことで、子供は自分の好奇心を追求することができるので、学ぶことそのものへの興味・関心を引き出すことができます。
モンテッソーリ教育との違いとは
モンテッソーリ教育とは「子どもの自主性や興味・関心を伸ばす教育に取り組む」という点で同様です。また、イタリアで誕生したのも同じです。では2つの教育で何が違うのか、それは「子どもへのアプローチ方法」です。
- レッジョエミリア教育:教室だけでなく、公園などに身近な自然環境も教材と捉える。
- モンテッソーリ教育:人によって作られた教具(おもちゃ)を教材と捉える。
どちらも子どもが教材に対して、興味を持ち自由な発想で遊んでいくのを大人がサポートする形となっています。
日本で受けられる施設
レッジョエミリア教育が受けられる幼稚園・保育園は以下の通りです。まとめた記事がございますのでご覧ください。
- 北見幼稚園(北海道)
- まちの保育園 / まちの子ども園(東京)
- Kids Oasis(東京)
- familiar PRESCHOOL(東京/兵庫)
- オルト保育園(東京)
- Kodomo Edu international school(東京)
- イートンハウス・インターナショナルプリスクール(東京)
- 代沢インターナショナルスクール(東京)
- HAPPY HORIZONS(東京)
- 東京チルドレンズガーデン(東京)
- やまた幼稚園(神奈川)
- 習志野台幼稚園(千葉)
- こどもなーと(大阪)
- アトリエ REIレイ こども舎(広島)
家庭で実践する方法とは?
日本では、レッジョ・エミリア教育を受けられる教育機関の数が、まだそれほど多くありません。
そこで家庭で実践できる「レッジョ・エミリア教育」を少し紹介していきます。
子供のやりたい活動を一緒に探してやらせてみる
まず子供が興味を持てるような活動を一緒に探してみましょう。インターネットで検索したり、地域の図書館で調べたり、どんなことでも良いのでやってみたい活動を探します。
子供が興味を持ったことが、例えば「昆虫採集」だったら、近くの野山に家族で出かけて、一緒に虫取りをしてみましょう。
実際に行ったことをベースにドキュメンテーションを行う
虫取りの最中は、子供の様子をビデオに撮って、活動の様子を記録します。帰宅後に、ビデオを見ながらどんなところが面白かったかなどを話し合います。
写真やビデオを撮影する時には、子供が虫取りに熱中している姿など、そのまま記録しましょう。最後に、子供と一緒にスクラップブックなどを作成してドキュメンテーションとしてまとめます。
レッジョエミリア教育のおすすめ本
レッジョ・エミリア保育実践入門
レッジョ・エミリア教育をわかりやすく説明したものです。保育者向けの本ですが、小さなお子様を持つ保護者にもぜひ読んでいただきたい1冊です。
レッジョ・アプローチ
日本で初めてレッジョエミリア教育を導入したアレッサンドラ・ミラーニさんによるレッジョ・エミリア教育の入門書です。実際の教育現場での実録をもとに作られているので、お子様を保育園や幼稚園に通わせたときのイメージをしやすいですね。
子どもたちの100の言葉
この本では、レッジョ・エミリア教育の具体的なプロジェクト例がわかりやすいレイアウトと文章で書かれています。様々な事例を見れるので、入門書にぴったりですね。
まとめ
世界最高の教育メソッドとして注目されている「レッジョ・エミリア教育」について解説しました。
北イタリアの小さな街で今から60年近く前に始まったレッジョ・エミリア教育。子供の社会性や権利を重んじ、ゆっくりと時間をかけて掘り下げていく教育スタイルが、子供の興味・関心を引き出し、やがて協調性や自律性を養うことにつながる大変素晴らしい教育方法です。
日本では、まだ知名度が低く導入している幼稚園も少ないのが現状です。まずは、家庭でできることから「レッジョ・エミリア教育」にチャレンジしてみませんか?
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